2017年9月4日月曜日

読書記録 ヤバい経済学


  • 相撲の力士は八百長なんてしない?
  • 銃とプール、危ないのはどっち?
といった、日常生活から裏社会までユニークな分析をしている。書いているのはアメリカの新進気鋭の経済学者のスティーヴン・D・レビット先生と、作家・ジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナー氏。本書は、今から10年前の2006年頃に話題になり、その後映画にもなっている(amazon prive videoで借りられます)。Wikipediaによるとレビット先生は現在50歳で、流石に歳月の流れを感じる。

 本書を読んだ感想は「こんな雑学みたいなテーマで一流誌に通すとはすごい」であった。ネットの記事とかコラムとかを読んでいると出くわしそうなネタで「ちょっと調べてみると面白そうだな」とは思うけど、でもデータを集めてきて、論文誌のレビューに耐えるだけの論を練り上げるのは、相当に大変だと思う。本当に。さすが、レビット先生、ノーベル賞よりも取るのが難しいといわれる「ジョン・ベイツ・クラーク・メダル」を獲得しただけある。

 日本人として身近な相撲についてもう少し詳しく見てみたいと思います。実際の論文は
"Winning Isn't Everything: Corruption in Sumo Wrestling." American Economic Review, 2002, 92(5), pp. 1594–605.

問題を知ってからこの論文が出るまで、最低でも下記の8ステップがある。かかる労力や難易度は様々だが、どこで躓いてもおかしくない。
  1. 新聞のコラムで相撲の八百長問題について知る
  2. 「優れた」分析観点を思いつく
  3. 相撲のデータを集めるため、英語の相撲専門誌「スモウ・ワールド」を15から20年分取り寄せる
  4. コンピュータにデータを入力する
  5. 分析を実行する
  6. 論文にまとめる
  7. 査読に耐える
  8. 論文が出版される
 地味にめんどくさいのが3と4のデータを集めるところなのだが、作業といえば作業なので淡々とこなせば、いつかは終わる。しかしながら、2の「優れた」分析観点を思いつくのステップは、不確かな状況のもとで自分の頭で考えることが求められ、精神的にタフでクリエイティブでなければできないステップだ。研究者の腕の見せ所である。

 今回の場合には、勝敗表から八百長が起こっているかどうかを判定する。当然のことながら、当事者の自己申告など無い。異常値検出みたいな問題設定ですね。さて、どうすればよいか。

 レビット先生は「勝ち越し」に着目し「7勝7敗で千秋楽を迎えた力士が、勝ち越しが決まっている相手と対戦する際に八百長が行われやすいのではないか」という仮説を立てた。7勝7敗の力士は負けてしまうと降格なのでどうしても勝ちたいが、相手は(優勝がかかっていなければ)負けてもそこまで痛くはない。
 実際にデータを分析してみたら同じ対戦相手でも、上記の状況では7勝7敗の力士の勝率が大幅に高くなっていた、とのこと。いやぁ、鮮やかだなと思う。
 僕なんかは最初はすごいアイデアだと思っても、分析をはじめたら泥沼にはまるというパタンばっかりなんだが。見習いたい。

 ヤバい経済学はシリーズ化されていて、2010年に超ヤバい経済学、2016年にヤバすぎる経済学が同じ著者から出ています。次に読んでみようと思う。



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