2020年1月26日日曜日

スタープレイヤー(恒川光太郎)十の願いを叶える能力を持って未知の惑星に連れてこられたら

恒川光太郎 スタープレイヤー

「十の願い」という特殊能力を持って、地球ではない別の世界で冒険の日々を送ることになった斉藤夕月。女。三十四歳。無職。本作はそんな彼女の異世界での暮らしを綴ったファンタジー小説である。

本作は下記のように始まる
2001年 東京 三月 
小金井市の住宅に真っ白な男がいた。
これがこの本を読むきっかけになった。舞台が近所だったから。ファンタジーを楽しめるかどうかは、その世界に浸れるかどうかにかかっている。場所つながりで、世界に入っていけるかもしれないと思ったのである。

読み始めれば、場所などほとんど関係なくスッとスタープレイヤーの世界に入り込めた。文章力がすごい。

プロットもよく練られている。願いを増やす願いを試みる(願いハック)など、よくある設定つつきなどに時間を使わず、その世界で生きるために、リアルに話が進んでいく。

そう、マイクラの初日に、なんとか日暮れまでに家を作り、安心して寝られる場所を確保するかのように。

また、人間関係の描き方もよかった。
最初に一人の暮らしを描き、次に二人の関係、そして村社会、国家と次第に人間関係が広がっていく。その中で、斉藤は成長していくのだが、要素が整理されているだけ、物語として伝えたいことがクリアになっている。

あとがきで「ファンタジー小説はまず書かせてもらえるようになるのが大変」とあるように、昨今の出版不況では相当な実力者でないとファンタジーは書けなくなっているらしい。そのハードルを超えたのも納得の本作は、皆におすすめできる。

本作には続編のヘブンメイカーも出ているので、今度はそちらも読んでみたい。


2020年1月25日土曜日

魔眼の匣の殺人 - 屍人荘の殺人のシリーズその2

今村 昌弘著「魔眼の匣の殺人

「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」

本作は、予知能力を題材にしたミステリー。魔眼の匣(はこ)とは、予知能力者が住む山奥の村の(元)研究施設の名前。村の住民たちが、予言を恐れて村を離れる中、施設を訪れた主人公たちは、施設に閉じ込められてしまい、惨劇の幕があがる。

本作は、小平の図書館で5月に予約していて、半年待ってようやく借りられた。前作屍人荘の殺人読書記録Webコミック)がとても面白かったのでとても期待値Maxで読んだ。一日で読んでしまった。

本作は、前作に続いて舞台設定(というか、世界設定?)に特徴がある。

予言をアリバイづくりやトリックとして使う作品はよく見るように思うが、本作は違う。
「本当に的中する予言あったとしたら、どんな物語が展開できるか」というスタイルを採用する。とはいえ、全員が予言を信じているわけでなく、村の住人以外にはほとんど知られていない。なので、外からくる予言を信じない人、予言を恐れている村の住人のそれぞれの行動が物語を展開させていく。

設定がしっかりしているからだろうか、ああ、こういうこともあるだろうなという、ある種のリアルさを感じさせることに成功している。

その一方で、やや設定を作り込みすぎた感もある。後半で謎が次々と明らかになるのだが、開示される謎とそれに釣り合うだけの物語があったか、を比較するとやや謎が勝ちすぎているように感じた。本作が、そうだと言っているわけではないのだが、物語のない謎の開示は設定集を読むようなものである。個人的には、せっかく魅力的なキャラクタがいるのだから、各人を人として描く比率を高めてもよかったのでは、と感じた。これから読む人は各登場人物のストーリーを頭の中で十分に膨らませて読むことをおすすめする。

ともあれ、屍人荘の殺人につづいて、新しいエンタメ的ミステリーを提示していて、楽しめることは間違いない。

Youtubeで本書に関する著者インタビューを見つけた。


前作を読まずに、本作から読んでも良いといっているが、私は前作も読むことをおすすめする。重要な登場人物や組織は前作から引き継がれているし、前作の事件を踏まえた心理描写も多いので。

幻の黒船カレーを追え

水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「 銀座ナイルレストラン物語 」( 読書記録 )を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。  今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。  で...