2019年7月23日火曜日

読書記録 国立科学博物館のひみつ

成毛眞,折原守著「国立科学博物館のひみつ」を読んだ.
先月,上の子どもと特別展「大哺乳類展2」を見てきて,とても良かったので,科学博物館についてもっと知りたくなったため.



本書は,東京・上野にある国立科学博物館(科博)の日本館を掘り下げている.科博には,日本館と地球館の2つの建物があり,日本館は日本列島の自然と日本人について,地球館は地球全体の生命の歴史と人類全体について,というテーマで展示をしている.

本書は日本館側なので,日本列島を形作る岩石から,そのうえの土壌,植物,動物について見どころを教えてくれる.

意外と地元の岐阜県出てきて,驚いた.

幻の奇獣「デスモスチルス」の化石は岐阜県瑞浪市産とのこと.海棲哺乳類で本書ではアシカみたいな顔で描かれている.Wikipediaによるとカバのような姿をしているらしい.こんなものが歩いたり泳いだりしていたのか.

また,史上最大とも言われる二枚貝「シカマイア」の化石も岐阜の赤坂金生山で出たもの.大きいものは畳サイズになるとのこと.しかも,このシカマイアは金生山で,世界で初めて発見されたという.以外な巨大化石の宝庫だった.

なぜここで巨大化石が見つかるのかは未だ謎.

金生山は実家から(頑張ればなんとか)歩いていけるくらい近いので,リタイアしたら実家に戻って化石掘ってくらそうかな,などと夢が広がる.巨大化石の謎を解き明かすんだ!

しかし,その頃には金生山石灰工業に掘り尽くされて,山がなくなっていたりして.

展示室以外の施設の紹介もあって,レストランは実は上野精養軒が運営しているということが判明.この前は混んでいて諦めてしまったが,味は期待できそう.一回入ってみたい.

また,じつは,科博はつくばにも拠点がある.上野地区の展示数は約1万5000点であるのに対して,つくばの標本棟は430万点(本書の執筆時点.科博はコレクションを手放さない方針なので今はもっと増えているはず)と桁違いに多い.実は科博のコレクションの殆どはつくばにあるということになる.この本を読んで初めて知った.

普段は非公開なのだが,本書ではそこにも潜入している.
8階建ての施設を7階から下に降りながらコレクションを解説する.
上に軽いもの,下に重いものを置いている.例えば,一階には大型動物骨格・化石標本室と大型動物液浸標本室があり,ダイオウイカの標本水槽とかが置かれている.
年一で公開していて,その日なら中を見れるそうだ.

2019年は4月21日(日)だったようで,もう終わっていた.また来年.

一通りコレクションの紹介が終わったところで2001年の独立行政法人化以降の特別展のポスターがアーカイブされていた.

2005年の「縄文VS弥生」は見に行った.もうそんな前なのか
2010年の「大哺乳類展」は前回の哺乳類展だ.前回も行っていたら,9年間の進歩が見分けられたのだろうか.

というわけで,盛り沢山な科博であった.
本書を読んで見どころや展示の工夫,舞台裏での研究についての理解が深まったところで,また科博に行きたい.

なお,地球館の本もあるみたいなので,また今度読みたい.

2019年7月22日月曜日

読書記録 英語のこころ 日本語と英語のイメージギャップ

松本安弘,松本アイリン著 英語のこころ 日本語と英語のイメージギャップ を読んだ.

「トマト」と聞いて,どんなイメージを持ちますか?

真っ赤に熟した,みずみずしいトマト.考えるだけでうまそうだ.

リコピンの健康効果を思い浮かべる人もいるかもしれない.

しかし,英語圏では,「tomatoは食べずにおくと腐って悪臭を放つ姿を連想する」のだそうで,あまりいいイメージではない.

本書では,こうした身近なもののイメージ関して,東西での違いを38項目に渡って紹介している.



単語の持つイメージとはなかなか難しいもので,(普通の)ネイティブスピーカーに聞いても,明確な答えが得られるものではない.確かに「水仙」ってどんなイメージですか,と聞かれて的確に答えられる自信はない.

なので,本書ではシェークスピアやワーズワース,夏目漱石や川端康成などの文学作品に根拠をおきながら,言語学者へのアンケート調査も加えて執筆したそうだ.

特におもしろかったのは,Latin/漢語と,moon/月だった.

Latin/漢語

Latin/漢語は,英語に対するラテン語と,日本語(やまと言葉)に対する漢語の関係を対応させて類似点を議論している.

英語はもともとゲルマン系(アングロサクソン系)の言語であるが,1066年のノルマン人のイングランド征服(Norman Conquest)によって,ラテン系のフランス語が英語に流入し
たという.

すると,同じ意味でもアングロサクソン系とラテン系と2つの方法で表現されるようになった.
He got through the work in such a short time. (アングロサクソン系)
He completed the work in such a short time. (ラテン系)

上記の例だと,アングロサクソン系のget throughは格闘しながら仕事をやりきったという生き生きした感じがあるのに対して,ラテン系のcompleteは洗練され高級な感じがあるがやや冷たい感じを伴うという.

コンピュータ界隈にいると,completeってよく見るし,普通に英語だと思っていた.英語圏の人からすると外来語で,形式張った感じだったのかと.このあたりの感覚はまったくなかった.

また,学問の専門用語には,造語が容易であり,かつ高級に響くラテン系が好まれる,とある.ということは普段論文で読んでいる文章にはラテン系の表現が多いのだろうか.
日本語でも,格調の高い文にするために漢語を使うというのは,よくあるアプローチで,そのあたりの類似も興味深かった.

moon/月

日本における月のイメージは良い.

「日本人が月の光を浴びながら時の経つのも忘れて逍遥し,気が付けば夜を徹して月見をしていたという風流心」を持っているという.

漱石は,I love you.に月が綺麗ですねと訳を当てた,とのことだが,そうした風流心を前提にすれば,わかる気がする.

男女が二人,縁側に座って,時を忘れて静かに月を見上げている.

そんな情景が思い浮かべば,二人の関係は言葉に出さずとももはや明らかだ.
ただ,正直,家族で月見団子を食べたぐらいの月見の思い出しかない私には最早説明されないとわからない文化になってしまっていた.

ちなみに,欧米では月は一ヶ月の間に何度も姿を変える不気味なもの,というイメージらしい.月をみて狼男になったり,lunatic が狂人だったり,と.

そのほかgift/presentとかwhaleとか.

あとは,小売会社はgiftと言いたがり,一般人は普通はgiftと言わず,presentというとか.giftは高価な贈り物でやや冷たい感じがするのに対して,presentは,手頃な値段の贈り物であたたかく,柔らかいかんじがすると,と.

また,欧米人にとっての贈り物に対する感情の根底にはトロイの木馬の故事がある,という話も興味深い.

I fear the Greeks, even though they bring gifts.

という諺があって,Greek giftsはトロイの木馬のように油断ならないものという感情があるとのことだ.その他,パンドラの匣も,そういった油断ならないgiftだと.

上記は,故事だったけど,その他にも聖書由来のイメージも多かった.例えばクジラとか.旧約聖書にて,クジラは,神に5日目に創られた,とあるそうだ.そういう背景がわかれば,欧米諸国が反捕鯨に熱心に取り組むのもわかる気がする.

1993年発行の古い本ではあるが,根が聖書だったり古典だったりするので流行り廃りするような項目は少なく,今でも学ぶべきことは多い.言語を学ぶのは歴史や文化を学ぶこと,とは言われるが,よくまとまった良書である.

2019年7月15日月曜日

読書記録 稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる

稲盛和夫著「稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる」を読んだ.稲盛氏は,京セラ,KDDI(の前身のDDI),日本航空(JAL)の経営トップを歴任されてきた日本を代表する実業家.本書は,稲盛氏が培ってきたアメーバ経営をどのように実践するのかをJALなどの事例をもとに説明している.



その名も「アメーバ経営」という本もあるが,そちらはまだ読んでいない.そちらは2006年とやや時間が経っているのに対して,本書は2017年出版と新しく,また例が多くとっつきやすそうだったので,まずこちらから読むことにした.文字が大きく200ページと短いのですぐ読めたし,アメーバ経営の基本的な考え方も説明されていて,自己完結しているので,その判断は正解だったと思う.

財務会計と管理会計というふたつの会計システムがあって,アメーバ経営では主に後者に関する.粗くまとめると,会社を5人程度のアメーバという単位に分割し,それぞれのアメーバを独立採算制で運用する.外部とのお金のやり取りのある部署ばかりではないので,社内で取引するという考え方で採算を評価する.

上記のような方法により,下記のようなメリットがある

  • いつでも,会社のどの部分が問題があるのかを経理的に明らかにできる
  • 小さな単位で採算性を意識させ,社員ひとりひとりに経営感覚をもたせることができる
考え方はシンプルで,なるほどなぁと思うけれど,実際に運用するには社内取引に関する値付けなどに工夫が必要で,なかなか一筋縄ではいかなさそうだった.

製造業,通信業,輸送業などで稲盛氏が成功をおさめているという実績を考えると,アメーバ経営を適切に運用するための一段メタな部分である(経営)哲学の部分が重要なのではないかと思う.


次は今の仕事を改善するために何ができるのかを考えるべきなのだろう.OSS開発だと,社内に閉じないので社内取引とは?となるしね.

もし,ソフトをインストールと取引が発生したと考えるなら,使わないインセンティブが働いてしまいそう.新しいソフトを使うには,ただでさえ学習コストや乗り換えコストがかかるし.

今度は,ソフトウェア産業の経営に関する本を読んでみたいと思う.

2019年7月14日日曜日

読書記録 呼吸入門

齋藤孝著 呼吸入門 を読んだ.

本書では,日本には伝統の呼吸法があったと主張し,現代ではその伝統が断絶しかかっていると問題を提起する.そして,現代人が伝統の呼吸法を取り戻すエクササイズとして
3秒吸って,2秒とめ,15秒で吐くという齋藤式呼吸法を提案している.



この呼吸の特徴は,下記にあるように吐くことに重きを置いている.吐けば,吸える.
捨てればスペースができ,そこが自然と満ちてくる.その「他力」を信じる.(P. 60)
齋藤先生は,授業中に子どもを集中させるために,課題の前にこの呼吸をさせたりするそうだ.何日も続けていると,子どもたちはこの呼吸をすることで集中モードに入ることができるようになる,とのこと.スポーツ選手がするようなルーティンの一種のようになっているのかもしれない.

私は本書を読んで,姿勢とか呼吸に意識がいくようになった.

本を読む際にも,また,コーディングでの難解な局面でも,ふと姿勢が悪くなって,呼吸が浅くなていることに気づく.そんなときは,すっと骨盤を正して深く呼吸をしてみる.それで集中力が戻らないなら,力を使い切っている証拠であり,休憩したり他のタスクに切り替えたりする.

呼吸をきっかけに生産性が高まったように思う.

本書の話に戻る.齋藤孝先生の研究の出発点が呼吸と教育の関係性についてであったのは本書を読んで初めて知った.「息の人間学」が研究者向けであるのに対して,本書「呼吸入門」は一般向けの内容になっている.

ただし,よくあるHowTo本とは違って,呼吸と日本の身体文化,呼吸と武術,呼吸と能の関係などを論じて,呼吸の重要性を説明していて,なるほど深いなと思った.20年の研究成果に裏打ちされている.

一方で,「XX力」などのシリーズと同様に本書も非常に読みやすい.こういうリズムのある説明も,整った呼吸から生み出されているのかもしれない.

2019年7月12日金曜日

読書記録 不動産を買うなら五輪の後にしなさい 不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ

萩原 岳著「不動産を買うなら五輪の後にしなさい 不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ」も読んだ.



著者は不動産鑑定士で,相続の際の土地の税金を計算したりするような仕事をしている.売買したり,仲介したりする人ではないので,そのへんがフェアな視点から書かれているように思った.

例えば,新築と中古の売買価格の決まり方の違いを丁寧に説明していたり,利回りとリスクプレミアムの考え方を説明していたりなどだ.新築を買うのはよっぽどお金に余裕がないとつらいな,と思ってしまった.買う予定は全くないけれども.

また,なぜ都心のタワマン人気なのかこの本を読んでようやく気持ちを理解した.価格に占める上モノ:土地の割合とか,人口減社会でも地価が下がらなさそうな場所を選んで建てられているとか.利便性の高い場所は限られていて,そこに高い構造物を建てて皆でシェアするのは合理的,ということなのだろう.

この本で解説されている値付けのからくりがわからないと,物件が割安か割高かは判断できないと思った.相場観とはいうものの,基準がないと踊らされてしまう.タイトルにあるように五輪もそうだし,過去にはバブルとか.

次に引っ越すときにはもう一回読み返したい.

編集元のツイート:
4月に読んだ本みたいだけど,メモしてあると内容を思い出すものですね.

2019年7月11日木曜日

読書記録 珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように

岡崎琢磨著 珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように を読んだ.シリーズ最後の1冊だ(2019年7月現在).



本作では,「アオヤマ」の中学生時代の恩人である年上の女性「眞子」が登場する.彼女は,アオヤマがコーヒーを追求するきっかけを作った人でもある.そんな彼女との11年ぶりの再開から物語が始まる.

今回の京都要素は源氏物語で,宇治などゆかりの場所が登場する.古典に登場する「京」と京都は,頭の中で全然つながっていなかったのだが,そう言われてみれば確かに源氏物語は京都が舞台だった.

源氏物語だけあって,ややドロドロした話が多めながらも,最終的にアオヤマとバリスタの関係に進展が見られてよかったように思う.その後の話も読みたいなと思うけど,源氏物語の「夢浮橋」のようにこのままの終わりでよかったように思う.

今回のコーヒー豆知識は世界各国のコーヒーだった.タイトルにある鴛鴦茶(えんおうちゃ)もその一つ.コーヒーと紅茶を混ぜた飲み物で,香港でよく飲まれているものだそうだ.

鴛鴦茶(えんおうちゃ)はコーヒーと紅茶を混ぜた飲み物

コメダ珈琲にも期間限定で「ジェリコ 鴛鴦茶」なるものがあるそうなので飲んでみたい.もはや別物のような気もするが.

タレーランの事件簿シリーズ


2019年7月10日水曜日

読書記録 その英語仕事の相手はカチンときます

デイビッド・セイン著「その英語仕事の相手はカチンときます」を読んだ.本書では,職場でありそうなシチュエーションごとに「カチン」とくる言い方と,正しい言い方が提示される.見開きで1シチュエーションなので,サクサク読める.



最初の例は
「週末どうだった?」という質問に対する
"Fine."
という回答。これは愛想のない答えで、まぁまぁという度合いが強い.

おすすめは
"pretty good."だそうだ.
ネイティブがよく使うと.

いいな,と思ったのは,正しい言い方が複数あること.丁寧さの違いや、自信の有無などをグラデーションで示してくれる.これを見ていると,英語にも謙遜とか敬語ってあるよな,と思う.

こういう例が100個ぐらい載っている.感覚な部分も多いので,暗記(!)しないとしょうがない部分も多い.が,「英語を暗記しないでモノにする方法」を意識しながら,例を眺めていると,仮定法で柔らかくする,断定を避けること(I think ..., I'm afraid ...とか)で柔らかくするなどのルールがあるよなと思った.


これを読んで,コードのレビューのときなどに
「失礼じゃないかな?強く言い過ぎてないかな?」
と意識するようになった.あとは復習ですね.

2019年7月9日火曜日

読書記録 英語を暗記しないでモノにする方法

関正生著「英語を暗記しないでモノにする方法」を読んだ.英語の勉強法本で,やみくもに暗記しないで,英語の核心をつかんで効率的に勉強する方法を教えている.



本書のポイントは3点

  1. 固定観念を疑う
    習ったことが実は例外だったりする.couldは実はcanの過去形の意味としてはほぼ使われていない,など.自分の理解が間違っているのでは,と疑ってみる.
  2. 削ぎ落とす
    個別に丸暗記するのではなくて,直訳や本来の意味から推測してみる.仮説検証を回して少ないルールで多くの事例をカバーできるようにする.
  3. 文化背景から攻める
    surpriseが驚かすなのは,人ならぬ神が驚かしているから?と考えてみるなど.英語はキリスト教の文化圏で発達したという背景を意識する.

このような暗記しないで,少ないルールから推論する,という方法は英語に限った話ではなく,他の分野でも見られると思う.

例えば数学の場合,解法やパターンを暗記して機械的に適用するというアプローチがある.これは暗記パターンに相当する.大学入試を前提とした勉強だと,短時間で多くの問題を解くことが優先されるので,この方法がノーマルルートになっているかもしれない.

一方で,数学でも公理や定義,定理から出発して,自力で解くこともできる.その方が時間はかかるが応用力がつく.受験でも難関大学だと実はその力が大事だったりする.

知の拡大再生産の場である研究の世界では,そもそもそのテクニックが確立されていないわけで,自分で試行錯誤してそれを見つける力が求められる.

(とはいえ,ファインマンメソッドのように,他の分野で確立された方法を別の分野に使えないか,など,テクニックの流用がないわけではない.ただし,その場合にも分野の壁を超える場合には,その方法がそのまま使えるケースは少なく,自分で作り直す作業があ発生する)

話はそれてしまったが,本書を読んでいいな,と思ったのは次のふたつ.

1.仮説検証を回す

前述の暗記しない方法で英語を勉強していく場合,自力で英語の法則を見つけていくことになる.ここで重要になるのが,そのオレオレ法則(=仮説)が実際に機能するのかを,折りに触れ検証することである.

例えば,本書で紹介されている「前置詞のforは方向が主な意味で,その他の目的など意味はそれからの派生」というパタンの場合,英文にforが出てくるたびに「方向から連想できる?」と考えてみるとが仮説検証に相当する.

2.辞書を引いて主な意味を確認する

本書を読んで,紙の辞書を読み直してみたら,改めてその価値を認識した.
辞書は単語帳ではなく,読み物だった.つまり上から下にストーリーがある.
例えば,自動詞,他動詞,どっちが自然か,などは登場順を見ればわかる.
(今の辞書はそうなってないものもあるが,語義展開などで補足されている場合が多い.ジーニアス英和辞典などはそう.)

私は普段,macの辞書は意味を確認するのに愛用している.
情報としてはそんなに変わらないのだが,単語帳っぽく,意味を拾い上げるに使っている.紙の辞書と電子辞書は適材適所だな,と思った.

持ち出して使うなら電子辞書,家でじっくり読むなら紙の辞書だ.

村上春樹が無人島に持っていくなら覚えたい外国語の辞書
といっていた気持ちがわかった気がする.

関先生の本はサバイバル英文法に続いて2冊目.前回の記録はこちら: 読書記録 サバイバル英文法

今度は,本書で紹介されていた,伊藤和夫著 ビジュアル英文解釈か英文解釈教室などを読んでみようかな.受験の参考書らしいけど.

2019年7月8日月曜日

読書記録 富裕層のバレない脱税「タックスヘイブン」から「脱税支援業者」まで

佐藤弘幸著 富裕層のバレない脱税「タックスヘイブン」から「脱税支援業者」までを読んだ.(脱税を推奨しているわけではありません.念の為.)



著者は国税局のOBで,現役時はマルサ(査察部)を超えるリョウチョウ(資料調査課)という舞台で数々の脱税を暴いてきた.今は税理士として活躍している.

前半には,典型的かつ伝統的な脱税の手口が書かれている.トーゴーサンピンとかそういう話だ.

後半が本題で,富裕層のバレない脱税について書かれている.タックスヘイブンを使った租税回避とか,金塊の輸出入を繰り返して消費税を抜くとかそういった手口だ.

読む前はタックスヘイブンは複雑そうなイメージを持っていたが,基本は単純だった.


  1. 所得税がかからない国に資金を持ち出す.
  2. その国で資金を運用して,利益を受け取る.
  3. 以上.


日本では利益が確定するときに税金が発生してしまうので,日本ではなく現地での活動にすることが重要.現地での活動と認めさせるために,法人を作ったり,運用も特別な生命保険を使ったりと手間もお金もかかる.

また,取り締まりの方も強化されていくので,去年まで使えた手法が今は使えない(=脱税,犯罪),ということが起こり得る.いたちごっこなのだ.

GAFAくらい儲かっていて,かつ研究開発費によってシェアが大きく変わり得る状況にいるならペイするだろうが, そうでないなら割に合わないだろうなぁ,と思った.


2019年7月7日日曜日

読書記録 かぐや姫はいやな女

椎名誠著 かぐや姫はいやな女 を読んだ


この本は,いろいろな雑誌に掲載されたエッセイ集である.
2016年の発行で,著者も自分で自分のことを「老人」と呼んでいたりするが,まだまだ元気そうで,中学校からのシーナファンとしては読んでいて嬉しかった.

タイトルのかぐや姫については,実はかぐや姫がエイリアンだったという設定での昔話再解釈SFである.親しみのある話に一つ仮定を持ち込んで異常な世界に導く話の一つだ.SFマガジンに掲載されたもの.

その他にも,酒の話,雑魚釣り隊の話,トイレの話,馬での牛追いの話,などタイトルとは関係のない話が雑多に集められている.そのうちいくつかは,別の本で詳しく述べられているが,本書では著者自身による解説がついているのが貴重.

また,昔は「コンクリートで海や川を埋めまくってけしからん」という主張だったが,本書では一歩進んで「それでも雲や風は変わらない」と変わるもの,変わらないものの両面からの言及があったのが興味深かった.

こうやって,多面的に物事を見られるようになるなら,歳をとるのも悪くないな,と思う.

2019年7月6日土曜日

読書記録 無趣味のすすめ

村上龍著 無趣味のすすめを読んだ.



本書はエッセイ集で,表題の無趣味のすすめもそのうちの一つ.そこでは,
『真の達成感や充実感は,多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり,常に失意や絶望と隣り合わせに存在している』
『つまり,それらはわたしたちの「仕事」の中にしかない』
と説いている.

経営者やそれこそ小説家など,自分の裁量を持って主体的に働いている人(=プロフェッショナル)を念頭においているらしいことに注意が必要.ブラック企業が従業員を奴隷労働させるための拠り所となる言葉ではない.

プロ登山家の竹内洋岳氏もその著書の中で「仕事でも趣味でもない生業を営む」と言っているが,(用語の揺れはあるものの)それに近い主張だと思う.登山で食べている,小説で食べている,というのは仕事と割り切ってできるものではないし,かといって趣味の範囲におさまるものではない.

社会に出てから研究と開発の境目で食べてきた私も,成果を出している人の様子を見るにつけて,そう思うようになってきた.成果を出す人は,その原動力が危機感であるにしろ知的好奇心であるにしろ,仕事というにはウェットに,エネルギーを振り向けており,そのスピードと完成度は完全に趣味の世界ではなかった.

それが単にワーカホリックなだけか,というとそうではない.本書でも述べられているように彼らは
「リラックスできて,かつ集中して仕事ができる人は,実はオンとオフの区別がない」
ように見えた.私はまだ全然その境地にたどり着けていない.

また,そうした姿勢を貫くには,ある種の覚悟が必要だ.本書の中の厳しい言葉にもそれが現れている.
  • 仕事はなんとしてもやり遂げ,成功させなければならないものだ
  • 仕事に美学や品格を持ち込む人は,よほどの特権を持っているか,よほどのバカか,どちらかだ
  • 仕事上の失敗は「単なるミス」で,準備不足と無能が顕になり,信頼が崩れ叱責されるだけだ
どれも耳が痛い言葉だが,自分を振り返るために有用な言葉である.

2019年7月5日金曜日

読書記録 仕事力 2週間で「できる人」になる

齋藤孝著 仕事力 を読んだ.
前に齋藤孝の速読術を読んでおもしろかったので読んでみた.齋藤先生も,同じ人の著書を何冊も読んで理解を深めることを勧めているし.
二冊に共通しているのは,話の流れがしっかりしていて,ふんふんと読んでいるうちに説得されてしまうことである.すごい文章力,構成力だ.



本書では,仕事ができる人になるための2週間集中特訓を提案する.
その中でもキーとなるのは「仕事ノート」である.これは自分自身の課題を記録しておき,何が問題なのかを具体的に考えるためのツールである.自身の振る舞いを客観視し,感情と行動を分離して捉えるのは,別の本でも勧められていた(が,なんの本だったか思い出せない……).

仕事ノートつけなきゃ,と思い,今週は,次の2つから始めてみた.

  • 今日の課題を決めて出社すること,
  • 3行で仕事の優先順位を書き出し,一つ仕事を終えるごとにその3行をまた見直すこと

今日の課題は,正直うまくいったのかよくわからん感じだったが,3行まとめの方は良かった.TODOリストのように網羅する必要もないし,項目が少ないので集中できるし,見直す際に反省をするようになるし,優れた仕組みだと思った.

あとは,これを保存して見直すための記録用紙をどうするか,だなぁ.
できれば電子的にやりたいんだけど,スマホの入力は一旦思考が途切れてしまうし,紙のノートはかさばるし,検索できないし.なにかいいものはないだろうか.

また,本書は解説が秀逸で,本書の主張が見事に構造化されている.
斉藤先生に説得されて「なるほどなぁ」と思って,解説を読むと「たしかにそうだった」とダメ押しされる感じ.

オススメ.

2019年7月4日木曜日

読書記録 「婚活」時代

山田昌弘さんと白河桃子さんの共著「婚活」時代を読んだ.



2008年出版で,今から10年前の本.結婚が当たり前でなくなったのは出会い格差や経済格差などの格差が壁となっているため,と述べる.要するに,職場の世話焼きな上司や先輩がいなくなって出会いがなくなり,不況や非正規雇用の増加により経済的に結婚が難しくなっている.

そう原因を捉えると,本書で述べられている「子育て支援よりも,その前に結婚を支援しないと,子どもは増えない」という主張は納得できる.前に読んだ「御社の働き方改革,個々が間違ってます!」では,子どもを持つ女性が育休を取ると,独身女性にしわ寄せがいく,という資生堂の事例が取り上げられていたが,これはそれを全国民に広げたような主張だ.

内閣府の出している未婚率のグラフをみると,2005年くらいから横ばいになっている.
どうやら当時と状況はかわっていないみたいだった.

今だとマッチングアプリが流行っているようだけど,そうした技術によって状況は変わっていくのだろうか.

2019年7月3日水曜日

読書記録 珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで

岡崎琢磨著 珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで を読んだ



これまでの3冊は長編だったが,今回は短編集である.5つの短編と1つのショートショートが収録されている.

今作では,バリスタの切間美星は脇役にまわり,脇役の人たちや,過去作の登場人物が活躍する.続編というよりはサイドストーリーで,タレーランの世界に奥行きと広がりを与えてくれる.

ただ,ちょっとアオヤマさんの振る舞いが本編と比べると頼りなさすぎるように感じて,違和感があった.最後にビシッと締めてくれたので,そういう演出だったのだろうけど.

ともかく,1話50ページくらいでサクッと読めるし,気分転換によかった.

次の事件簿5がいよいよ最終巻.楽しみだ.

タレーランの事件簿シリーズ



2019年7月2日火曜日

読書記録 頂きへ、そしてその先へ

竹内洋岳著 頂きへ、そしてその先へを読んだ.



竹内氏はプロの登山家で,8000m峰のすべてを日本人として初めて完全登頂したことで知られている.下記のように先月にその13,14番目の登頂記録を読んでいて,今回はより広い視点からのエッセーを見つけたので読んでみた.

表紙の写真は2012年のアイランドピーク登山のときのもの.背景の雪山は切り立った壁のようで,すごいとこ登っているんだなぁということが直感的にわかる.また,竹内氏は右のフレーム外の方を仰ぎ見ていて,そちらには何があるのだろうと想像力をかき立てられる.

本書の内容は,竹内氏が山で考えたり,感じたことをまとめたもの.その山というのが8000m峰など大多数のひとは行ったことがないところなので,その言葉も普通は聞けないものであると思う.

形式としては,見開きで一つのエピソードになっていて,左ページが見出し,右ページがその説明になっている.この見出しが,心に響くものであり,考えさせられるものになっている.見出し力だ.

エピソードは,基本登山のことが書いてあるのだが,それは我々の日常生活や仕事にも応用できる.

例えば意思決定に関するエピソードとして
「誰かから決め方を教わるのではなく,自分で決めることを学ぶ」
というものがある.

竹内氏は,その登山人生の中で,学生時代の先輩,体のケアを相談する医師,天気のアドバイスを貰う山岳気象予報士など様々な人に支えられてきた.彼らを尊重し,信頼を置く竹内氏であるが,彼らの言葉を受け入れるか,受け入れないか,最終的に決めるのは自分だという.それは,彼らの言葉に従った結果は彼らの結果になるのではなく,自分の結果になるからである.

登山では一回の決断ミスで命を落とす危険がある.そんな修羅場を幾度となくくぐってきた竹内氏の言葉だから重みがある.

事実,2007年にはガッシャブルムⅡ峰で雪崩に巻き込まれ,背骨を粉砕骨折する大怪我を負っている. 不運だったと言ってしまいそうになるが,竹内氏は運という漠然とした言葉で片付けることを否定し,考える姿勢を失っては行けないと強く主張する.それが,決断を学ぶということなのだろう.

私も,仕事において,また日常生活において,あるものは意識下で,またあるものは無意識下でいろいろな決断を下している.

それぞれの決断がどういう結果をもたらすのかを振り返りつつ「決めること」を学んでいかなければ,と思った.

その他にも下記のように経験に裏打ちされた心に残るエピソードがたくさんある.
  • 仕事でも趣味でもない「生業」を営む
  • 必要な努力を探し出す
  • 何もすることがない時間なんて本来無い
これらは,広くプロフェッショナルとして仕事をしようとしている人に共通している態度なのではないか,と思う.

登山に興味ある人はもちろんだが,特に興味のない人でも,何かを突き詰めたいと思っているならオススメできる本である.


2019年7月1日月曜日

読書記録 「わかる」とは何か

長尾真先生の「わかる」とは何かを読んだ.長尾先生は,元京都大学総長,元国会図書館長で,自然言語処理,パターン認識の大家である.


本書では,科学技術を題材として,私達はどのようなときに「わかった」と言うのか,について議論している.2001年の本だが,人間の根本に関する議論であるので十分通じる.
科学技術に対して,一般の人が不安を抱く例として挙げられているのが「クローン技術」であるのが,少し古く感じるくらいである.一方で「原子力」に対する理解と安全への配慮については繰り返し指摘されている.うーむ,と考えさせられるものがある.

本書では,論理的にシンプルできれいなところからスタートして,やがていろいろな例外を見ながら現実に接地していくという構成をとっている.

はじめに,科学的説明とは,という説明がある.帰納と演繹,定理の証明,推論,問題の分割などである.自然科学では,そうした議論の正しさが実験によって確認され,積み上げられてきた.なので,頭で考えることと実験で手を動かすことは両輪であって両方とも重要である.

ちなみに,本書と並行してベイズ統計の歴史の本を読んでいたので,帰納の部分についてはベイズっぽいなと思った.信頼度付きで考えないといけないとか,新しい事実によって信頼度は更新されるとか.また,本章では余談として議論に勝つ方法が述べられていて,アカデミアの世界でのサバイバルを感じた.「前提への攻撃」と「根拠が無いことと間違っていることとの混同への攻撃」である.

次に,どんな場合に推論が不完全になるかの説明がある.最初の例として挙げられているのが還元主義における無限後退の問題である.つまり,物理学で分子→原子→クォーク…とさかのぼって来たが,どこまで行けばよいのか.また,検証の途中である現時点で確実に言えることはあるのか,という問題だ.そうして,推論の適用条件を意識する必要性を指摘する.受け入れた仮定は妥当か,議論が循環していないか,アナロジーが通用する範囲内で議論しているか,などだ.

そして,科学的説明を行う際に利用する言語についての注意点が述べられる.語の持つ意味(内包的意味,外延的意味,関係的意味)から始まって,文の構造によるあいまいさ,文脈と知識による解釈の揺れなどが説明される.

その延長で,メタファーの有用性と危険性についても指摘があり興味深かった.昨今の人工知能ブームでメタファーを使った説明は様々な議論を生んでいる.メタファーに関するリテラシ,とくに限界側の見極めが重要性を増しているように思う.

本書の最後には,これまで説明した基本と限界についてを鑑みて,ではどうすれば科学技術が社会の信頼を得られるか,について述べられている.そのなかでは,アナリシス(分析)の時代からシンセシス(合成・創造)の時代への移り変わるという指摘がおもしろかった.アナリシスによって導かれた法則を,手当たり次第組み合わせて,新しいものをなんでもかんでも作ってしまう,というのがシンセシスの時代だ.スタートアップの生態系やDeep Learningの研究をみていると,2010年代はそんな時代になったなぁ,と.

また,最後の「自然科学を超えて」の節がすごかった.プラトンから始まった西洋科学を2ページで振り返り,続く2ページでアーラヤ識など東洋思想の観点から西洋科学の限界を指摘する.非常に高い視座からの議論で,おもわず音読してしまった.

以上のように,本書は科学的説明とは何か,またその限界は,についてコンパクトだが読み応え十分にまとめられている.

手元において,折に触れて読み返したい本である.
Kindle本がなくて残念.Kindleリクエストはしておいた.

幻の黒船カレーを追え

水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「 銀座ナイルレストラン物語 」( 読書記録 )を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。  今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。  で...