2019年6月27日木曜日

読書記録 御社の働き方改革,ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社

白河桃子著「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」を読んだ. 著者は,政府の働き方改革実現会議で有識者議員を務めた働き方改革の専門家.タイトルは過激だけど,ダメ出しはあまりなくて,むしろ副題の「残業削減で伸びるすごい会社」について書いてあるポジティブな本.



働き方改革実現会議で何が一番大きく変わったかというと,罰則付きの残業上限規制が決まったこと.本書が書かれたのは2017年なので,まだ施行前だったのだが,厚労省のページによると「大企業は2019年4月~」とのことなので,一部の企業ではもう始まっている.なお,「中小企業は2020年4月~」とのことで,来年度からだ.

罰則は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」とのこと.これまで罰則がなかったので,あまり実効性がなかったが,今はそうではなくなった.

以下,気になったポイント.

働き方改革は,経営改革.

無制限の残業はできなくなったので,決められた時間で成果を出すことが労働者に求められるようになった.いるだけで評価されてきた今までと違って,労働者にとってよりシビアな環境になる.

一方,経営者にも変化が求められる.具体的には,
生活残業をなくすために給与を底上げしたり
浮いた残業代を成果報酬に転換したり
と,成果に報いることだ.

もし,経営者が残業分の人件費が浮いたと喜んでいるだけなら,それは労働者にも伝わり,やがて改革は後戻りしてしまう.


成果のすり替えに気をつける

「利益を出せ」という経営層の目標が,組織の階層を下るにつれて,いつのまにか「売上を上げろ」にすり替わっている.部長あたりだという.本来であれば,残業代(コスト)が上がれば利益は減るので,無理な受注は控えるなどするはずだ.

なぜ,売り上げにすり替わるかについて言及はなかったが,利益を上げるためには構造的な改革が必要だが,売上を上げるには現場の頑張りでなんとかなってしまうためではないかと思う.利益の目標が厳しい場合に,売上については「頑張って」上げて
「利益は未達ですが,売上は伸びており,成長は続いています.今期は投資の時期で,次期はかならず利益につなげます」
とエクスキューズする,と.

もし,そうだとすると,部門ごとの個別最適化の弊害がでているということだろう.全体最適をしようとすると,やはり経営の問題ということになるのだろうか.

働き方改革のフェーズ

本書では,下記の3つのフェーズで働き方改革が進んできたと述べている.

第一次均等法: 女性のみ.マッチョ滅私奉公な男性にあわせる
両立支援:女性のみ.時短などの制度充実,育休取得100%など.
働き方改革:男女.長時間労働の規制.選べる働き方.

今は,3番目の改革で,男の側にも改革の手が入ったのがこれまでの違い.


大手マスコミの女性社員と著者による座談会

参加者は,一人か二人子どもがいる.本音が出ていて興味深かった.
夫は頼れない.会社も拘束してくる.両親も遠くに住んでいる.のでベビーシッターやファミリーサポーターを最大限活用し,「計算するのがこわいくらいお金をかけて」なんとかこなしている.

「三人子どもがいると,ベビーシッターは二人雇わなければいけないんですよね.それも,みんな知らない.」

ええ,知りませんでした……

制約社員

本書では「制約社員」という言葉が使われている.
子育てや介護などで働くことができる時間に制限を受けている社員のことを指す.

著者の「制約社員こそマネージャーの視点とスキルが必要」という主張が興味深い.
プレイヤー思考からの脱却とも言いかえられる.
マネージャーは「他者を使ってものごとを成し遂げること」が求められる.
制約社員の場合も,自分の時間が使えない分,人の力を借りながら成果を出すことを考えないと,成果を大きくすることはできない.

ここで,著者は「ボスになれ」とか「仕事を押し付けろ」と言っているわけではない.本書では,マネージャー思考への転換の推奨のあとに,リーダーシップの必要性も説いている.高圧的に出るのではなくて,感情や信頼関係に基づいて引っ張っていくべきだ,と.

まとめ

最後に述べた制約社員については,三浦展氏の「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」でも触れられていた.毎日…では問題提起までだったが,本書で述べられている働き方改革は,その解決策である.

人間生きていれば病気になることもあるし,けがをすることもある.また,社会を持続させるには子どもを生み育てなければ,ならない.そうなると,そもそも制約のない人間なんていないはずなのに,それを無視してきたのがこれまでの企業,社会だったのではないか.その歪が過労死という形で労働者をおそったり,また,「超高齢化社会」という形で社会に立ちはだかったりしているのではないか.

働き方改革によって,日本の企業や社会をサステイナブルなものにしていかなければならない.

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