三浦展著「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」を読んだ.
著者は社会や消費や都市の動向の分析を生業としている.
本書では過去15年の間に注目すべきキーワードが,1件数ページほどで紹介されている.
2016年の本なので,2000年代のキーワードと見てよさそう.シェアとか一人焼肉とか.
タイトルにもなっている「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」とは,Appleのスティーブ・ジョブズのことを言っている.
有名な話だが,ジョブズは同じ型の黒いタートルネックをたくさん持っていて,いつもそれを着ていた.
日常的なことに意志力を使うことを避け,その分仕事に回したいということだそうで.
本書でさすがだなと思ったのは,単にジョブズの例で終わるのではないところである.
大前研一とか向田邦子など日本の著名人を引き合いに出して日本ではどうなのか,また更に進んで一般の人はどうなのかについてまで言及しているところだ.
なので,辞典的に参照する,というよりは,読んで考えさせられる本になっている.
本件について言えば,ユニクロシャツの私はせめて古いのをそのまま着続けるのはやめようと思った.
その他,印象に残ったキーワードは「自己関与性」だ.
これは,与えられたものにお任せという受動的な態度ではなくて,自分が能動的,主体的にものに働きかける態度のことを指す.
LPや自動車などについて例が挙げられていたが,その中でスマホの自己関与性についてはへえと思った.
その例の出し方がソフトウェア開発者から見るとちょっと不思議だった.
「壊れやすい製品を出しておいて,ユーザが好きなケースを選べるようにしている」をいう説明だったからだ.
ソフトウェア開発者の視点からすると「アプリを好きに入れられる」のが自己関与性かと思ったが,その指摘は意外にも外面についてだった.
「落としたら割れるような壊れやすい製品は日本メーカーは作らない」というのはなるほどで,クレームのことを考えたらハード屋さんは反対するよなと思う.
コア機能やデザインが優れていたら,今の消費者は壊れやすさを(ある程度まで)受け入れて(工夫して回避して)使ってくれる,ということだろうか.
先日,NICTのオープンハウスで石黒浩先生の講演を聞いた際には
「今のロボットは壊れやすすぎる」
「コストを考えてスマホの部品を流用しているためだ」
とおっしゃっていた.
自己関与性の例から考えると「壊れやすさをあえて残して,ユーザ側の対応である程度補えるようにする」ようなデザインも一つの可能性としてあるのではないかと思った.
このように,本書は自分の興味についての思考を深めるきっかけとなる良い本でおすすめ.
2019年6月26日水曜日
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