2019年6月29日土曜日

読書記録 経営パワーの危機

三枝匡著「経営パワーの危機」を読んだ.大企業からベンチャー再建に乗り込んだ中堅ビジネスパーソンの奮闘記,という形で三枝氏が経営に関する持論を語る.



三枝氏は,スタンフォードMBAを持ち,BCGでのコンサルティングから経営の実践に転じ,バクスターシャ,大塚電子などの代表を歴任.バリバリの経営者だ.

本書が書かれたのは1994年で,今から25年も昔だけれど,内容は今でも古びていない.本書が実話をもとにしていて,かつ,企業活動における人間の本質をついているからなのではと思う.なのでオススメ.

本書の舞台のベンチャーは,物語の冒頭では明日をもしれぬ状況なのだが,新しいリーダのもとで急激に立ち直っていく.その時の手法が「トップが現場をまわって,赤字の原因を洗い出していく」という正攻法.ただ,正論かざせばいいというわけではなくて,開発,設計,製造,営業の各部門で対立を起こさないように人間力も駆使しながら進めていくところがリアルである.

正論と人間力の両方がカチッとあうとすごい,というのはとても共感できる.

その後,赤字脱出から成長へとステージが変わり,それぞれで難しい問題がでてくる.特に,新製品が立ち上がらず耐えるエピソードが印象に残っている.基本技術はできていて,一点物なら何度か作ったことのある製品だが,量産となるとなかなか思い通りにならないのである.それでも,主人公は戦略と辛抱と大胆な仕掛けによって乗り切っていく.読者は,主人公を通してベンチャーの経営を疑似体験できるだろう.

物語の合間にはコラムがあって,物語に対する解説が入る.これがあるので,単なる小説ではなく,ケーススタディ主体とする経営の教科書になっている.そういう面では「ザ・ゴール」の日本語版のような位置づけの本かもしれない.

1994年というとバブルは弾けていたと思うんだけど,本書からは日本企業の気概というものを感じて熱い.僕はハードカバーで読んだけど,その副題の「熱き心を失っていないか」がよかった.今の副題の「会社再建の企業変革ドラマ」より,よっぽど本書の熱を伝えていると思うんだけど.

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