2021年7月27日火曜日

有川浩 「阪急電車」再読

 

有川浩著「阪急電車」

図書館で見かけて気になって借りたら、以前にも読んだことがあった。1章読んで気が付いた。逆に言うと、表紙を見ただけでは気づかなかった。

そもそも、私は「阪急」に弱いようだ。親がもともと阪急系列の会社に勤務していたことも関係していると思う。

とはいえ、タイトルだけで読み通すほど、私は読書が得意ではない。この本はやはり面白い。

阪急今津線と主人公たち

本書の舞台は阪急今津線の8つの駅である。前半では電車は宝塚駅を出発し、西宮北口駅に至る。後半では、西宮北口駅で折り返し、宝塚駅まで戻っていく。それぞれの駅が一つの章に対応していて、駅ごとに主人公が変わっていく。

それぞれの主人公は初めは全くの他人である。偶然近くに乗り合わせた、というだけの縁なのだが、やがて人生を変えるような出会いになっていく。

現実世界では、電車で人と関わり合いになることなどまずない。しかもこの頃ではノイズキャンセリングヘッドホンで耳もふさいでしまっているので、人の話を小耳にはさむこともない。その意味で、この小説の阪急電車は、ある意味で時代劇の中の人情残る江戸の下町、みたいなものかもしれない。

また読み返すかも

本書の主人公は、老人と幼児、高校生、大学生、新社会人と様々である。大学生のボーイミーツガール的な展開もあれば、PTAの胃の痛くなるようなつらい人間関係もある。自分のライフステージが変われば、感情移入する主人公も変わってくるだろう。

そういう意味で、本書は何度も読み返すことになるかもしれない。

ちなみに、今回は「下らない男ね」「やめておけば?苦労するわよ」という老婦人の言葉が刺さった。そう言われている男には決して同情できないが、かといって、老婦人のように切ることもできない。自分を棚上げするなどというような思考をしていては、決して出せない切れ味である。私もこのまま歳を重ねていけば、(若いころの自分を忘れて)ズバッと切るようになっていくのだろうか。それとも、人の性質というのはそうそう変わらないのだろうか。


2021年7月21日水曜日

銀座ナイルレストラン物語 ー 日本初のインド料理店の発展

銀座ナイルレストラン物語
表紙の写真は看板料理の「ムルギランチ」

本の感想の前に

この本を読んだのは2020年の2月のことで、COVID-19の流行が国内で始まったころだった。緊急事態宣言、在宅勤務、などいろいろな変化があり、読書やブログを書くモチベーションを失ってしまっていた。

いま、ワクチン接種が進みようやくCOVID-19の出口が見えかけたような気がしている。ブログを書く気力も戻ってきたので、まずは古い記事の下書きから投稿しようと思う。

第一弾はこの「銀座ナイルレストラン物語」だ。この本で日本のカレー店の源流を知り、著者の熱にあてられて、家でスパイスカレーを作るようになった。

1年半も前のことなので、細部は記憶がおぼろげであるが、大枠だけでも書き残せたらと思う。

銀座ナイルレストラン物語の感想

ナイルレストランは銀座にある、日本初のインド料理店。インドカレーを初めて出した店、というと新宿・中村屋が思い浮かぶが、それは喫茶事業の一環であり、専門店としてはナイルレストランが初なのだという。

本書は、1949年創業のナイルレストランの創業から現在までを、創業者父子を追う形で書いている。

ナイルレストランの立ち上げ

初代のA. M. ナイル氏(以後、父ナイル)はもともとはインド独立を目指す革命家で、京大留学のために戦前、日本に渡ってきた。1947年にインドがイギリスから独立すると、ナイル氏の革命活動も終わる。そして、食べていくために始めたのがインド料理店であった。

面白いのは、インド料理を作ったのは父ナイルではなく、日本人の奥さんだということ。彼は経営者であって、料理人ではなかったのだ。

伝統の継承

本書の次の主人公は息子のG. M. ナイル氏。

彼は看板商品のムルギランチを決して変えなかった。違うことがやりたいなら別の店としてやる、ナイルはナイルなので同じものを大切に作り続けた。

ただし、彼は父ナイルとは違い、自分自身が料理人であった。万博のために来日したインド最高のホテルの料理人から直々に料理の指導を受けた。

興味深いのはその修行法。徒弟制ではなくて、家庭教師制なのだ。お金を払って、自分が納得するまで教えてもらう。「見て盗め」という職人の世界とは一線を画している。

以上のように、安易な現状維持のためではなく、料理人として積極的な判断で、レシピを守っていた。だからこそ、店は70年以上にわたって繁盛しているのだろう。

著者の情熱

登場人物も魅力的なら、著者の水野仁輔氏もすごい。
全編を通して、隙がない。正確に、しかも面白く伝えたい!という情熱が伝わってくる。
彼は、本書のほかにも「幻の黒船カレーを追え」というカレーに関するノンフィクションを書いている。ぜひ読みたい。

おわりに

私はまだナイルレストランに行ったことはないが、いつか気軽に外食ができるようになったなら、ぜひ行ってみたい。
すごい本に出会った。読んで良かった。



幻の黒船カレーを追え

水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「 銀座ナイルレストラン物語 」( 読書記録 )を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。  今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。  で...