2019年12月28日土曜日

山藤章二のヘタウマ文化論を読んだ

山藤章二著 ヘタウマ文化論
神田の喫茶店にて

本書は、著者が夜寝る前に考えた「ヘタウマ」に関するよしなしごとを、そこはかとなく書きつくったもの。読んでいても「夜のリズム」というか、静かにゆるゆると流れていく思考を感じ取れてよかった。読んでいて穏やかな気持ちになった。

さて、山藤章二氏は、美大卒で広告会社から独立して挿絵、漫画で活躍され、この本の執筆時は75歳とのことだった。

当時、著者が美大に入るには、デッサンデッサンまたデッサンで絵を「上手く」描くことを叩き込まれた。また他の芸術でも同様で、作家は名文が書けてあたりまえだし、落語家は上手さで笑わせることを信条としていた、という。

それが、近年では「ヘタウマ」がもてはやされ、「上手く描ける人がわざと下手に描いて」表現をするようになったという。

本書で出てくるエピソードは、時代的には、私よりもだいぶ上で正直わからない人も多かった。そうなんだけれど、安西水丸氏はわかった。村上春樹のエッセイの表紙を描いていたりするけど、たしかにヘタウマだ。少なくとも画力を見せつけるタイプではない。

本書は、タイトルに文化論とあるように、ヘタウマが流行した文化的な背景が考察されている。ただ、資料にはよらず、記憶を頼りに論を進めているので、細部についてつつくのは粋ではない。むしろエッセイとしてとして読んだ。

興味深かったのが、議論の中で著者の友人であった「立川談志」の視点が何度も登場することである。談志の言葉を引いていることもあれば、あいつなら、こう思う、と書かれていることもある。これっていいなぁと思った。

一つの道を極めた友人が、自分の中にいる。それは、一人でいても、二人で議論を深められ、思考の袋小路に陥るのを助けてくれるだろう。

さて、私の頭の中に、誰かそういう人がいるだろうか。
世界に対して扉を閉じていないだろうか、また、通り一遍の人付き合いで世を渡ろうと考えていないだろうか。

著者の語り口と夜の雰囲気が、私にそんなことを考えさせた。
著者の人生のつまった、いい本だった。


2019年12月24日火曜日

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論(あるいはルネサンス変人列伝)

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論
神田のスターバックスにて

著者のヤマザキマリさんはテルマエ・ロマエで有名だが、以前は画家をされており、学生時代はイタリアで美術を学んでいたという。そんな著者が(独断と偏見で)選んだルネサンスの芸術家たちを、その良さはもちろん変なところも含めて紹介している。というか、変人エピソードが結構多い。

私も(読んでいる分には)変人が好きで、変人エピソードの多い本(高野秀行氏の著作とか)をまま読んできたが、本書もなかなかよかった。道を極めると変になるのか、変だから道を極められるのか。

とはいえ、単におもしろおかしく書いているわけではなくて、
  • ルネサンスをおこした人々と社会情勢
  • ルネサンス最盛期の様子
  • ルネサンスにおける外国(北方、イスラム圏)の影響
などがわかりやすくまとめられていて、勉強になった。

なんだか抽象的なので、いくつか記憶に残っているエピソードを記す。

本書で初めに紹介される画家。私は本書で初めて知った。この人はイタリアの絵画は宗教画から脱却するきっかけの一人として説明されている。その功績は「実在の人物をモデルに、それと分かる形で描いた」こと。彼の絵のモデルになったのが、奥さんと子ども。自分の愛するものを思いっきり描いたら世界が変わった、というのはすごい。実は聖職者なのに駆け落ちして、その上絵のモデルにする度胸もすごい。筋の通った変人である。


2)ルネサンスの三大巨匠といえばラファエロミケランジェロダビンチだ(実はこれも本書で知った。ラファエロについてはあまり知らなかった)。三者三様でそれぞれ違って面白かった。ラファエロは、クライアントの気持ちを汲める常識人的な人だったらしい。その一方でちょっと変わった形で自己アピールをしていたりする。例えばラファエロの「アテナイの学堂」で一人だけカメラ目線の人がいる。そのモデルが自分という。回りくどいというか、通好みというか、変わっている。

一方で、「筋肉は裏切らない」を地で行くミケランジェロもすごい。「胸の上にリンゴ載せてんのかい」な裸婦像を披露されたときのクライアントの気持ちを想像すると忍びない。

また、ダビンチの人嫌いエピソードも興味深かった。人嫌いだからこそ、解剖図に熱心に取り組んだ、という。対象から距離を取れるからこそ、客観視でき、客観視できるからこそ人体を切り刻んでも平気でいられる、ということか。人が切られるのを見て、自分が痛みを感じていては、解剖図は描けない。


3)国によって、画材が違った、というのも知らなかったので勉強になった。イタリアではテンペラ画やフレスコ画が主流だったのに対して、北方では油絵が発達した。その一番の違いはざっくりいうと解像度で、油絵のほうがずっと細かな表現ができた(そうだ)。なので、北方の画を見たイタリアの芸術家はその緻密さに驚いたという。ルネッサンスはイタリアからその他の地域に広がったと漠然と思っていたので、画材や技法についても同様だと思っていた。しかし、実際は北方の油絵やイスラム世界に残るローマ時代の芸術がイタリアに大きな影響を及ぼしていた、ということがわかった。勉強になる。


この本は、芸術家の「人」の部分に焦点を当てて解説しているため、親しみがわいてくる。人がわかれば絵の背景も見えてくるので、読む前よりずっと理解ができるようになった(と思う)。そういう意味で、絵画には詳しくないけど教養として知っておきたい、という人におすすめできると思う。私もその一人だ。



2019年12月23日月曜日

小説 ペイ・フォワード 指数関数的に広がる親切の輪



キャサリン・ライアン・ハイド著「ペイフォワード」を読んだ。

ペイ・フォワードは恩送りのねずみ講(表現!?)のようなもので
「人に親切にしたときに、自分ではなく別の3人に親切にするようにお願いする」
という運動だ。

3人 → 9人 → 27人 → 81人 → 243 → 729人 → 2187人 →

と指数関数的に親切の輪が広がっていく。やがて、世界の人口を超え、2度目、3度目の親切が回ってくる。

有名な話で、史実だと思っていた。
この本も、史実を基にしたノンフィクション小説だと思って、読み始めた。

読み終わってみたらフィクションでショックを受けた。

親切で世界を変えたトレバーはいなかったんだ。

いい話なんだけど、アメリカの下流よりの家庭の暗部(アルコール中毒、薬物中毒などなど)も普通に出てくるので、小学生には勧められない。おすすめできるのは中学生~高校生くらいだろうか。


2019年12月16日月曜日

読書記録 ぼくのフライドチキンはおいしいよ



中尾明著「ぼくのフライドチキンはおいしいよ あのカーネルおじさんの、びっくり人生」を読んだ。

ここのところ、子どもに伝記を読み聞かせている。エジソン、ライト兄弟ときて三冊目の本がこのカーネルサンダースの伝記だった。

本書は、主に小学生向けに書かれたカーネルサンダース(本名ハーランド・デーヴィッド・サンダース)の伝記だ。読む前の時点で、ケンタッキーフライドチキン(KFC)の店頭に立っている人形の人、65歳でKFCを立ち上げた、くらいしかカーネルサンダースの知識はなかった。てっきり会社を定年(?)退職して、KFCを立ち上げた脱サララーメン店主みたいな人なのかと思っていたのだが、この本を読んでそれが全然間違いだったことがわかった。

Wikipediaにも書いてあるが、大きく言うと機関車の火夫 → 弁護士見習い → タイヤのセールスマン → ガソリンスタンド経営 → レストラン経営 → ケンタッキーという流れで職を転々としている。仕事を変える都度都度で一文無しになっているところがすごい。65歳で無一文。そこからKFCで大逆転。

すごい。

また、それぞれの職で伝説的な逸話を残しているのがすごい。

たとえば、カーネルが火夫をしているとき、別の鉄道会社の列車が脱線事故を起こした。近くにいたカーネルは、その鉄道会社を相手に被害者のために交渉し、会社から多額の賠償金を勝ち取った。当時は、鉄道事故が起こったとき、鉄道会社は少額のお見舞金を配って終わりで、被害者はけがの治療費も満足にえられない、というのが常識だった。カーネルの行動は異例中の異例だ。当然このエピソードは鉄道会社に広く知れ渡り、会社に損失を与えた男として、以後、カーネルは鉄道業界から追放されてしまう。

レストランを始めた経緯も、もともとはガソリンスタンドのサービス向上の一環だった。章のタイトルにもなっているが「車にはガソリン、人には食事」というわけだ。レストランでも、より喜んでもらうにはどうしたらよいかを考えて、秘密のイレブンスパイスや圧力釜による高圧調理を発明し、のちのKFCにつながっていく。

自分の正義心と、人の役に立ちたいという思いを貫き通した人なんだろうなと思う。

ただ、正義のためには実力行使も辞さないところはやばい。椅子を振り上げるシーンが2回も登場する。弁護士見習い時代と、KFC時代と。60過ぎて、肉切り包丁に椅子で対抗するとか。普通ではない。

また、商売もうまい、というかよく考えられているなと思った。KFCはチェーン展開をするのだけれど、スパイスだけはカーネル(と家族)だけが調合し、ほかの人には秘密にしていた。そうすると、スパイスの減り具合からどれくらいチキンが売れているかが推測できる。これにより、売り上げに連動するローヤルティが正しく支払われているかを検証することができる。

伝記を読むと、偉人は変人でもあることが分かって面白い。
同じ著者が安藤百福の伝記も書いているので手に入ったら読みたい。

2019年12月15日日曜日

村上龍エッセイ集「ハバナ・モード」 キューバの人が困難に立ち向かう基本姿勢とは



村上龍著「ハバナ・モード」を読んだ。13歳のハローワーク半島を出よの間に書かれたエッセイ。小説家のエッセイは好きで、村上春樹の村上朝日堂や椎名誠の新宿赤マントシリーズを読んでいた。村上龍のエッセイは初めて。

結構、社会批評色の強いエッセイだなと思った。

例えば、表題になっている「ハバナ・モード」についてもそうで、困難にぶつかったとき、キューバの人たちはどのように対処するのか、ということが書かれている。なので、キューバ人という総体を扱っている。個人寄りか社会寄りかといえば社会寄りである。

ハバナ・モードとは何なのかというと、次の三つの態度を伴う問題解決の基本姿勢だと解釈した:

  1. 困難を直視する
  2. そのうえで、楽観的な気持ちで解決策を探る
  3. 解決に向かってひたすら努力する

たとえば、キューバはアメリカに経済制裁を受けて、化学肥料が手に入らなくなった。それで、人々は化学肥料の代わりに有機肥料を使い、農業を発展させた。その結果、今(2000年代前半)では有機農業の最先端を行っているという。

世間的にはニッチに見えても自分の道にひたすらこだわることで、いつの日か最先端に返り咲いたところはDeep Learningと重なるところがある。解決できることを信じて、ひたすら取り組むと本質をつかむことができる、ということなのかもしれない。

今の世の中の流れに安易に流されず、腰を据えて取り組む、というか。

思い返してみれば、このブログもそうだ。
短文が基本のSNSがあたりまえの時代に、あえて長文を書くのは、読んだ本に対して自分の感想や立場を一貫して説明し、記録するためだ。

短文は、短文で役割がある。しかし、知を身に着けるということは、自分の考えを、読み手に補完させることなく述べきることができることだと考えている。そのためには、長文は欠かせない。

エッセイはほかにもいろいろなテーマについても書かれていたが「ハバナ・モード」、それだけひとつ取り上げても勉強になる本だった。

2019年11月4日月曜日

読書記録 東京おさぼりマップ


東京おさぼりマップを読んだ.
20分間の気分転換「おさぼり」のできるスポットを紹介している.

行動圏内だと神田のショパンとか千代田区立総合体育館(今は千代田区立スポーツセンター),大手町のネオ屋台村などが紹介されていた.

2006年刊行と結構古く,移転したりなくなったりしている場所もまま見られる.JTBの旅の図書館なんてあったのか,と思ったが,丸の内から南青山に移転していたりする.

具体的な情報よりも,巻頭のエッセイがよかった.
村上春樹のエッセイの挿絵をよく担当している安西水丸氏や本の雑誌の元発行人目黒考二氏,イギリスはおいしいの林望先生らが自分のおさぼりを紹介している.

古書店,図書館,公園......静かで,また静かすぎないところで身と心を休めたくなるよね.

読書記録 光圀伝



冲方丁著 光圀伝を読んだ.水戸光圀公をモデルとした時代小説.大河ドラマでやった方がいいと思う.絶対面白い.(と思って検索してみたらこんな署名サイトがあった.しかし,この事件でもう無理なのか…)

光圀公といえば,テレビドラマの水戸黄門のイメージだった.
「助さん,格さん,懲らしめてやりなさい」
「もういいでしょう」
「この紋所が目に入らぬか」
「ははー」
の定型で,究極のマンネリ.正直,あまりいいイメージはなかった.

本書の光圀はアツい.
冒頭は,老齢に達した光圀がある男を殺めるシーンで,そこから幼少期の回想に入っていく.最初から宮本武蔵や沢庵和尚が登場し,武と知の極みを光圀に見せる.光圀の時代は戦国と太平の端境期で,光圀は武から知,特に詩歌や歴史編纂へと傾いていくのだが,その二人は読者にとってよい道標となっていて,物語に入りやすい.私はここで掴まれた.

ちゃんとその理由は最後に回収されるのだが,あーーーとなった.なるほど,これはすごい.ネタバレしたい.

SF作家が科学的事実の間をうまく縫って物語の核となるテクノロジーを生み出すように,史実と史実の間をうまく縫ってすごい歴史エンターテインメントを作り上げている.著者がSF出身(マルドゥック・スクランブル)だからそう感じるのか.

また,天地明察の渋川春海も登場する.私は既読だったので思わずニヤッとしてしまった.

それから,筒井康隆の解説も良かった.ネタバレしたいけど,書けないよね,という共感が得られた.

おすすめ.


2019年11月3日日曜日

読書記録 人生を考えるのに遅すぎるということはない



人生を考えるのに遅すぎるということはないを読んだ.建築家の安藤忠雄やフレンチシェフの三國清三ら各界の著名人が15歳の若者向けに書いたメッセージ集だ.

自分の人生を振り返って,その経験から大切だと思ったことを,平易で語りかけるような文章で書いている.易しいけど深い.30も後半戦の今読んでも染みる.

それぞれ壮絶な人生を歩んでいるので,直接的に応用できることはほぼない.ただ,その苦難に立ち向かう姿を見ると,生きる勇気が湧いてくる.

常に手元において,寝る前などに読み返したい.

2019年11月2日土曜日

読書記録 知の越境法~「質問力」を磨く~



池上彰著 知の越境法~「質問力」を磨く~を読んだ.
池上彰氏は「習慣子どもニュース」のお父さんとして知り,わかりやすく伝えてくれる人だなぁと思っていた.著書を読むのは初めて.

この本は,いかにして現在のフリージャーナリスト「池上彰」が生まれたか,を解説する自伝のようにもなっている.帯にもあるが,左遷がキーワードになっていて決して順風満帆な会社人生ではなかったことがわかって,勉強になった.左遷であれ,なんであれ,環境が変わったときに頑張れば,自分の引き出しが増えて次に繋がる.その実例が描かれている.生存者バイアスは割り引いて考える必要はあるが,それでも池上氏の行動には勇気づけられる.見習いたい.

で「質問力」については,いくつかポイントが挙げられていて実践的であった.
例えば「小学生にわかるように教えてください」という聞き方.自分がアウトプットする先を想定して,その要求を満たすように質問を組み立てるのだ.これは会社でも良さそう.

もう一つは,非専門家であることを自覚しつつ,最低限の勉強はしてインタビューに臨む,というもの.勉強しないのは論外なんですね.

最後は,質問リストは用意しつつも,現場ではそれを見ない,というもの.質問リストを順に聞くだけでは,議論が深まらない.回答に対して,あれ?と思ったことを深掘りすることで面白い議論ができる,という.これは確かにそう.機転がいって,難易度高いけど.

次は,この本で挙げられていた池上氏の現代史の本などを読みたい.


2019年11月1日金曜日

読書記録 村上龍料理小説集



村上龍著 村上龍料理小説集を読んだ.集英社文庫の方を図書館で借りて読んだのだが,いまは講談社文庫の方しか売っていないみたいなので,画像は講談社の方にした.

32の短編集.それぞれの章は前後でつながっていたりするので,はじめから読むと良いと思う.この本を読むと,なんだか上等な白ワインが無性に飲みたくなった.なので夜に読むようにしていた.

知らない食べ物も出てきた.例えば,フンギ・ポリツィーニというきのこで,フンギと略されていて?となった.検索してみるとポルチーニのことみたいだ.あとは,フロリダのストーンクラブ.コストコでも売ってたりするみたい.ただ,このブログに見るように,やっぱり現地のレストランで食べたいですね.

20代の頃は,村上龍氏の作品を1ページで挫折していたのだが,30代の今は「そういう人もいて,そういう表現もある」ということで読めるようになったし,それなりに楽しめる様になった.カンブリア宮殿の影響も大きいと思う.小説に反して,案外まじめな人なんだな,と.

巻末に1988年10月刊行とあって,バブル真っ盛りのころ出された本らしい.そのせいなのか,ニューヨークでもパリでも高級ホテル,高級レストランが多く登場する.

当時,日本は勢いがあったんだなということを感じる.いま,もしこうした本が書かれるとしたら,だいぶ違った雰囲気になるのではないかと思う.

時代のスナップショットとして,読んでみるのもよいと思う.


2019年10月31日木曜日

読書記録 星を継ぐもの



ホーガンの名作SF星を継ぐものを読んだ.会社で「三体」が紹介されたときに関連作品として話題に上がったので,読んでみた.

人類が木星にまで進出した未来のこと.月面で宇宙服を着た死体が見つかり,分析の結果,5万年前のものだということがわかる.この死体の正体が何かを物理学者のハント博士が調査を始めるところから物語は始まる.事実から仮説を立て,仮説を検証するうちに説明のつかない謎が現れ,そうこうしているとまた新しい事実が判明して仮説をアップデートして,というプロセスを繰り返す.(うまくいっている)研究のプロセスを追体験できてとても楽しい.

最後までとても楽しめた.続編の「ガニメデの優しい巨人」も読みたい.

ただ,読み終わってから?となった.もしかしたら前に読んだことがあるかも.妻に聞いてみたら,その表紙は見たことがあると言っていたのでたぶん読んでいる.おそらく大学生のころだと思う.

すべてを忘れてしまって,二度目も存分に楽しめたのでお得だったと思うことにした.

2019年10月29日火曜日

読書記録 今すぐ「それ」をやめなさい



森田豊著 今すぐ「それ」をやめなさいを読んだ.
著者は医師で,健康のためにやめた方が良い習慣を1つ約4ページで50個紹介している.

テーマは食事,アルコール,入浴・睡眠,身だしなみ,心と脳の健康,足腰,社会生活の7つあった.

取り入れたいと思ったのは,下記の3点.

  1. お風呂で湯船に入ってから体を洗うのをやめる
  2. カロリー消費を運動に頼るのはやめる
  3. 2時間以上座りっぱなしをやめる
一点目については,湯船につかると,皮膚表面がふやけて傷つきやすくなり,その状態で体を洗うと皮膚が荒れて乾燥肌が悪化する,ということらしい.これは経験的にもそうなので,今後も先に体を洗ってから湯船につかるようにしたい.

二点目は,普通の生活をしている人は,運動で消費されるカロリーはたかだか5%(そもそも時間が取れないからでしょうな).で,約30%は,非運動性熱生産(ニート)で,通勤で歩いたり,家事をしたりして体を動かすときに消費されるらしい.基礎代謝が60%なので,その半分にあたる.基礎代謝は30代男性なら1500kcal程度らしい(参照).その半分は700kcalくらい.結構大きい.水泳ならクロールで1時間半くらい泳がないといけない.クロール3時間は厳しいが,ちょこちょこ体を動かすのを2倍にするのは可能なのではないか.日常生活のちょっとした活動を増やしていきたい.

三点目は,2時間以上座っているとがんのリスクが大腸がんだと8%上がるらしい.ニートが阻害されて,免疫機能が衰えるからだ,と推測されている.なので,そういう面でもちょくちょく席を立って歩き回るようにしたい.

このほか,そうだろうなと思ったのは下記2点.一見体に良さそうだけど,効果がない or 逆効果.
  1. デトックスで体はきれいにならない
  2. 運動前の入念なストレッチはやめる

そして,これはちょっと議論がありそうと思ったのは下記2点.
  1. 少量のお酒は認知症予防によいが,大量はだめ
  2. 食後すぐの歯磨きはしない
お酒については統計のとり方があれで,お酒を飲まない人のグループに病気で飲めない人が含まれていて,悪い方向にバイアスがかかっていた,という話が最近出ていたように記憶している.つまり,少量でも飲むと有害だ,と.今年読んだはずだが,その本を日記に書いてなかったのが残念.

食後すぐの歯磨きについては,食事で生じた酸が歯の表面を傷つけやすくなるから,というのが理由だが「酸性の食品をとった直後は避けるだけでよい」などいろいろ議論があるみたいですね.

健康に関する「定説」は結構移り変わるので気をつけてアップデートしていかなければと思った.

2019年10月28日月曜日

読書記録 アメリカの高校生が読んでいる投資の教科書



アメリカでは高校生に経済や金融の実践的な教育が行われているが,日本ではまだそこまでではない.本書は,日本の高校生に投資の基本を教えるとしたら,という過程で書かれている投資の教科書だ.

株式,債権,為替について一通り説明してある.複利の効果で72のルールなど実践的な内容もある.知っている内容が多かったが,良い復習になった.

ただ,2010年の発行なので,2019年現在では例に挙げられている数値が古くちょっとピンとこないものもある.今はもうマイナス金利だったりするしね.

2019年10月11日金曜日

読書記録 夜型人間のための知的生産術



齋藤孝著 夜型人間のための知的生産術を読んだ.
齋藤先生も夜型らしい.内容は,これまで読んできた齋藤先生の本にあるように,

  • とにかくたくさん本を読む
  • アウトプットもする.それも人が唸るようなものを書こうと努力する
  • 呼吸を整えて,肝の据わった人になる
というような,いつもの自分を磨く方法が書かれている.本書の特徴は,それらの方法や効果を説明するのではなく,それをする時間に注目している点だ(なので,方法は他の本を読んで補うべき).先生の体質と体験から夜にする場合に焦点が当てられ,先生の経験と夜型の偉人たちの逸話をもとに説明されている.

世間では朝型がもてはやされているので,その逆張りでもある.
昔から早起きは三文の徳,と言うし,最近では,ティム・クックの起床は3時45分という話もある.

しかし,近年の研究で,朝型か夜型かは遺伝子が大きく関わっていて,体質なので変えようとしても仕方がないらしい,ということがわかってきた.

そうすると,朝型は朝型なりに,夜型は夜型なりに,それぞれ特徴を活かしながら頑張っていくしかない.

本書を読めば,夜型の人は自分にあった鍛錬の方法が見つかるかもしれないし,朝型の人は夜型の人はそう考えるのか,とかそんな努力をしているのか,などと夜型の人への理解が深まるかもしれない.

ただ,本書には今まで読んできた齋藤本と比べて,主張にやや歯切れの悪さを感じた.それは, 世間には夜型でない人もいて,それでも成功している人がいるためではないか.

例を挙げるとすると,夜に創造性を発揮した作家としてバルザックを上げている.夜,書いて,朝,校正するタイプだったらしい.でも,作家こそ,いろいろなタイプがいる.例えば村上春樹は午前中にしか仕事をしないという.そうすると,夜じゃないと創造性が高まらないわけではないよね...と思ってしまうのだ.

夜とか朝とかにこだわらず,それぞれがそれぞれのゴールデンタイムを持っているはずなので,成し遂げたいことを常に頭の片隅において,どの時間に何をするといいのか,考えなさい,というのが,この本から学ぶべきことなように思う.


2019年10月10日木曜日

読書記録 ウォーレン・バフェットはこうして最初の1億ドルを稼いだ




グレン・アーノルド著 ウォーレン・バフェットはこうして最初の1億ドルを稼いだを読んだ.

ウォーレン・バフェットは伝説の投資家で,世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの経営者.オハマの賢人とも呼ばれている.

そのバフェットが,(ほぼ)無一文からどのようにして最初の1億ドルを稼いだかが,本書では述べられている(ことになっている).実際に読んでみると,それぞれの投資で得られた利益が開示されていない場合もあり,結局どの時点で1億ドルに達したのかよくわからなかった.

本書の良いところは,そういうアオリのための見せかけの数字にとらわれず,バフェットが当時置かれていた状況と,どんな判断によって投資するに至ったのかが,それぞれのケースで丁寧に書かれていることだ.

それによると,大学時代に師事したバリュー投資の創始者ベンジャミン・グレアムの教えに心酔し,会社の価値を詳細に分析し,Mr.マーケットの気まぐれに騙されず,逆に利用した,というのがバフェットの根底にあるプリンシプルのようだ.

かといって,それだけで投資がうまくいく,というものでもなくて,バフェットはかなり経験から学んでいる.

例えば,子供の頃(なんと11歳)に姉と共同で資金を出し合い,ある会社の株を購入した.しかし,目論見ははずれて株価は下落.資金を出してくれた姉に面目が立たず,罪悪感を抱えて苦しい日々を送った.しばらくして価格を戻すとすぐに売却.この投資の利益は約5ドル.この経験からバフェットは出資者のお金を運用する責任感を学んだという.

その他にも,バフェットがフロートに目をつけたこと,投資をするだけでなく,経営にも関わったこと,など勉強になった.

フロートは,ブルーチップスタンプのようなスタンプを集めて商品を貰おう式のビジネスや保険のようなビジネスで発生する.顧客から先にお金を受け取って,支払いは後であるため,当面支払うあてのない余剰資金がでて,それをフロートという.フロートを投資に回せば,ある意味自分のお金ではなく,顧客のお金で利益を出すことができる.頭良いけど,損失をだしたら,と思うと怖い.片手間にできるようなものではない.
今だと,Suicaやバーコード決済のチャージ方式のものでも同様にフロートがありそう.規制は厳しくなってそうだけど.

また,バフェットの出資会社への経営への関与については,これは人間力がすごかった.まず,信頼をおいて経営を任せられる人を見つける.そして,基本的に経営はその人に任せるのだが,もしその経営者から相談があれば,時間を割いて親身に対応する.なるほどなぁ,と思うものの,実際やろうとしたら難しい.まず「バフェットに相談すればなんとかなる」と頼りに思ってもらわないといけない.舐められたら終わりだ.バフェットはそんな経営者を複数相手しなければならない.「ちょっと忙しいから」が続けば人心は離れるだろう.やっぱり,人なんですね.

そんな賢人も,バークシャー・ハサウェイの買収の件では怒りに我を忘れたような取引をしていて興味深かった.信頼を重視し,裏切りを許せなかったんですね.

ということで,ためになったことはためになったのだが,この浅い感想を見ればわかるように,バフェットが下した経営判断の具体的な凄みなどについてはイマイチ腹落ちしていない.経営や株に関する知識が足りなすぎるのだ.

もうちょっと経済を学んでから読み返したい本である.

2019年10月9日水曜日

読書記録 父親が知らないとマズイ 「女の子」の育て方



高橋博著 父親が知らないとマズイ 「女の子」の育て方を読んだ.
一言で言うと,親の考えを子どもに押し付けるな,対話せよ,とのこと.
人生の先輩として,自分の経験を話してあげるのはいいけど,古いものさしで子どもを測るな,縛るな,と.

主張はもっともなんだけど,補強材料が頭で考えた感があったり,ステレオタイプじゃない?と思う面があったりして,やや弱い.著者はいろいろな学校で学校改革,教育改革をされてきた,ということなので,もっと具体的な事例があるとよかった.または,統計をつかったり,研究を引いたりするとか.

どちらかというと,女の子,うんぬんのところよりも,今の中学,高校がどうなっているか,のところが勉強になった.東京都の公立高校の定員数って,全生徒の4割しかないんですね.私立がマジョリティという.地方の公立高校出身としてはショックを受けた.

私立といっても,金銭面では公立と大きな差はないらしい.教育の無償化で補助金がでるためだ.所得制限はあるけれども.こういう制度(文科省)ですね.

とはいえ,私立は授業料だけでなく寄付(強制)とか,修学旅行積立金とか,いろいろと追加でお金がかかりそう.

また,私立だと学校間で教育方針やカリキュラム面での違いが大きいとのこと.特に考えることを重視した,新学習指導要領ではその違いがでる,と.

うーむ,これはちゃんと準備しなければ......

2019年10月8日火曜日

読書記録 人生で大切なことは泥酔に学んだ



栗下直也著 人生で大切なことは泥酔に学んだを読んだ.

太宰治,三船敏郎,福沢諭吉など著名人の泥酔にまつわるエピソードを紹介する.あの有名人が実はこんな酒乱だったなんて……と絶句するような話が満載である.

人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった」とか,「社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった」など,いろいろ「大切なことは系」の本はあるが,本書の面白さはそれらとは一線を画す.

まさか名作「走れメロス」の誕生に,泥酔が深く関わっていたなんて……

著者はまえがきで下記のように述べている.
彼らはしくじりながらも,それなりに成功を収めた。
(中略)
「酒を呑んで泥酔しても胸を張れ」とは言わないが,くよくよ悩んでいても仕方がないではないか。令和を生きる社会人が反省しながらも,明日を元気よく生きる処方箋に本書をしてほしい。
しかし,どのエピソードもぶっ飛びすぎていて処方箋になど,とてもならない.どんなに酔っ払っても,軍艦から大砲をぶっ放したりしないでしょう?

また,有名人のエピソードを引き立てるのが著者自身の泥酔エピソードである.著者は1980年生まれとあるので同世代であり,中にはああ,これは,と親近感を覚え,後悔を呼び起こすエピソードもある.さすがに著者のように千葉ー神奈川間を往復したことはなかったが,京王井の頭線を数往復したことはある.富士見ヶ丘駅で車庫行きになり,そこから三鷹台駅まで歩いたんだよな……

私の話はどうでもよかった.本書に戻る.
読んでいて気がついたのは,あるエピソードで主人公だった人物が,別のエピソードにも登場することだ.例えば「汚れちまった悲しみに」で有名な中原中也は,ビール瓶のエピソードで日馬富士事件を絡めて暴力的なエピソードで登場する.30歳と若くしてなくなり,繊細なイメージを持っていただけに意外であった.その中原は,太宰のエピソードにもマジで怖いので絶対に酒場で会いたくない人物として登場する.
また,評論家の小林秀雄は自身駅のプラットホームから落っこちるエピソードで登場するが,その小林は中原のエピソードにも登場する.なんと同じ女性を取り合った間柄であったという.泥酔は泥酔を呼ぶのか……

本書で登場するのは教科書で見るような確立された,堅いイメージしかなかった人々なのだが,本書を読んだ後にはホントしょうがないやつらだ,というイメージに変わる.なので,酒を飲めない学生さんも,読んでおくと心理的な障壁を破壊できて良いかもしれない.

あと,個人的に「白壁王」とか「大伴旅人」が出てきたのもよかった.令和にちなんで「大伴家持」を読んだときに出てきた人たちだ.1000年前も,100年前も,今も,人間あまり変わらないな,と思った.

今年ぶっちぎりNO1に面白かった.
こういう本があるから読書はやめられない.

著者の書評リストを見つけた.どれも面白そう.次の一冊をここから選ぶのもよいかもしれない.

2019年10月7日月曜日

読書記録 ココまで変わった学校の教科書



コンデックス情報研究所編著 いつのまに?! ココまで変わった学校の教科書 昭和〜平成〜令和で驚くほど書き換えられていた を読んだ.

表紙にあるように

  • 仁徳天皇陵古墳は今は大仙陵古墳と呼ぶ
  • My name is Ichiro Suzuki. ではなく I am Suzuki Ichiro.
  • 恐竜は絶滅ではなくその一部が鳥類に進化した
というような教科書変わったよ,ということを1件2,3ページのペースで紹介してくれる.
科学における新発見(恐竜と鳥),歴史上の発見や解釈の変化(仁徳天皇陵),文化の変遷や異文化の尊重(英語でも名前は姓名の順)によって教科書は今も変わり続けている.子どもと話すときに,正誤表(誤りではないんだけど)みたいに利用できて良さそう.



しかし,読んでいて疑問も残る.鳥と恐竜では足の指の付き方が違うので,(羽毛があったとしても)恐竜は鳥の祖先ではない,という主張を2000年頃に見たような気がするんだけど,あれはどうなったのか.

また,個人的には,日本最古の貨幣は和同開珎ではなく富本銭というのに地味にショックを受けた.Wikipediaをみると,確実に広く流通した最初の貨幣は和同開珎となっていた.新しいことがわかると条件がどんどんついていく.テストではどっちが出るのだろうか.

すでに有名な変更もカバーされていて,鎌倉幕府は1192ではなくて1185とか,冥王星は惑星ではなくなった,というのも紹介されている.一応ニュースで知っていたのだけれど,本書では理由もわかりやすく説明してくれているので,読み物として楽しめる.

ちなみに鎌倉幕府の成立年が変わったのは,征夷大将軍に任命された年(1192)を起点とするのではなくて,守護地頭を全国においた年(1185)を起点とするようになったから.冥王星が惑星でなくなったのは,観測技術の向上によって同じくらいの大きさの天体が見つかったことがきっかけ.惑星の定義が見直されて,冥王星は太陽系外縁天体となった.惑星の定義,皆さんは御存知でした?私は知りませんでした.

あと地味に面白かったのが「教科書体」というフォントの紹介.小学校の教科書でしか使われないフォントがあったなんて.たしかに見ると懐かしい気持ちになった.


2019年10月6日日曜日

読書記録 地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。



椎名誠著 地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。を読んだ.

タイトルがいいですね.
これは,エドワード・O・ウィルソンというハーバード大学の教授がナショナルジオグラフィック日本版2006年10月号「アリの世界 その不思議な社会性を追求」という記事がもとにしている.
アリは小さいけれどたくさんいるもんな.

本文では,その事実から人間対アリの抗争について妄想する.
体重が同じ → 戦って白黒つける
というのは,若い頃格闘に熱中していた著者らしいというかなんというか.

本書はSFマガジンの「椎名誠のニュートラルコーナー」というコラムをまとめたもの.前作は2008年の「長さ1キロのアナコンダ」で,これも昔読んだ気がする.体の長さが1キロもあれば,神経伝達速度の問題で,しっぽがかじられてもその痛みが脳に伝わるまで何分もかかってしまうから,そんな生物はすぐに淘汰されてしまうというような話だったような.

本書の面白いところは,前述のウィルソン教授や,一般向けの科学書で有名なカクミチオ教授の本をベースにしてシーナ的SF妄想を読ませてくれるところだ.

完全にSF化された物語はアド・バードのように,現実世界とは違うシーナ・ワールドで物語が進む.一方で本書は現実の物理学を出発点にしているので,現実世界からシーナ・ワールドへの通路を覗き見ることができる.不思議の国のアリスのうさぎ穴みたいに.

しかも,本書は基本的に18話もコラムが入っているので,18個もうさぎ穴が覗けるわけです.お得ですね.

短いから電車の中などで気軽に読めるし,雑学欲も満たしてくれるので,おすすめ.

2019年7月23日火曜日

読書記録 国立科学博物館のひみつ

成毛眞,折原守著「国立科学博物館のひみつ」を読んだ.
先月,上の子どもと特別展「大哺乳類展2」を見てきて,とても良かったので,科学博物館についてもっと知りたくなったため.



本書は,東京・上野にある国立科学博物館(科博)の日本館を掘り下げている.科博には,日本館と地球館の2つの建物があり,日本館は日本列島の自然と日本人について,地球館は地球全体の生命の歴史と人類全体について,というテーマで展示をしている.

本書は日本館側なので,日本列島を形作る岩石から,そのうえの土壌,植物,動物について見どころを教えてくれる.

意外と地元の岐阜県出てきて,驚いた.

幻の奇獣「デスモスチルス」の化石は岐阜県瑞浪市産とのこと.海棲哺乳類で本書ではアシカみたいな顔で描かれている.Wikipediaによるとカバのような姿をしているらしい.こんなものが歩いたり泳いだりしていたのか.

また,史上最大とも言われる二枚貝「シカマイア」の化石も岐阜の赤坂金生山で出たもの.大きいものは畳サイズになるとのこと.しかも,このシカマイアは金生山で,世界で初めて発見されたという.以外な巨大化石の宝庫だった.

なぜここで巨大化石が見つかるのかは未だ謎.

金生山は実家から(頑張ればなんとか)歩いていけるくらい近いので,リタイアしたら実家に戻って化石掘ってくらそうかな,などと夢が広がる.巨大化石の謎を解き明かすんだ!

しかし,その頃には金生山石灰工業に掘り尽くされて,山がなくなっていたりして.

展示室以外の施設の紹介もあって,レストランは実は上野精養軒が運営しているということが判明.この前は混んでいて諦めてしまったが,味は期待できそう.一回入ってみたい.

また,じつは,科博はつくばにも拠点がある.上野地区の展示数は約1万5000点であるのに対して,つくばの標本棟は430万点(本書の執筆時点.科博はコレクションを手放さない方針なので今はもっと増えているはず)と桁違いに多い.実は科博のコレクションの殆どはつくばにあるということになる.この本を読んで初めて知った.

普段は非公開なのだが,本書ではそこにも潜入している.
8階建ての施設を7階から下に降りながらコレクションを解説する.
上に軽いもの,下に重いものを置いている.例えば,一階には大型動物骨格・化石標本室と大型動物液浸標本室があり,ダイオウイカの標本水槽とかが置かれている.
年一で公開していて,その日なら中を見れるそうだ.

2019年は4月21日(日)だったようで,もう終わっていた.また来年.

一通りコレクションの紹介が終わったところで2001年の独立行政法人化以降の特別展のポスターがアーカイブされていた.

2005年の「縄文VS弥生」は見に行った.もうそんな前なのか
2010年の「大哺乳類展」は前回の哺乳類展だ.前回も行っていたら,9年間の進歩が見分けられたのだろうか.

というわけで,盛り沢山な科博であった.
本書を読んで見どころや展示の工夫,舞台裏での研究についての理解が深まったところで,また科博に行きたい.

なお,地球館の本もあるみたいなので,また今度読みたい.

2019年7月22日月曜日

読書記録 英語のこころ 日本語と英語のイメージギャップ

松本安弘,松本アイリン著 英語のこころ 日本語と英語のイメージギャップ を読んだ.

「トマト」と聞いて,どんなイメージを持ちますか?

真っ赤に熟した,みずみずしいトマト.考えるだけでうまそうだ.

リコピンの健康効果を思い浮かべる人もいるかもしれない.

しかし,英語圏では,「tomatoは食べずにおくと腐って悪臭を放つ姿を連想する」のだそうで,あまりいいイメージではない.

本書では,こうした身近なもののイメージ関して,東西での違いを38項目に渡って紹介している.



単語の持つイメージとはなかなか難しいもので,(普通の)ネイティブスピーカーに聞いても,明確な答えが得られるものではない.確かに「水仙」ってどんなイメージですか,と聞かれて的確に答えられる自信はない.

なので,本書ではシェークスピアやワーズワース,夏目漱石や川端康成などの文学作品に根拠をおきながら,言語学者へのアンケート調査も加えて執筆したそうだ.

特におもしろかったのは,Latin/漢語と,moon/月だった.

Latin/漢語

Latin/漢語は,英語に対するラテン語と,日本語(やまと言葉)に対する漢語の関係を対応させて類似点を議論している.

英語はもともとゲルマン系(アングロサクソン系)の言語であるが,1066年のノルマン人のイングランド征服(Norman Conquest)によって,ラテン系のフランス語が英語に流入し
たという.

すると,同じ意味でもアングロサクソン系とラテン系と2つの方法で表現されるようになった.
He got through the work in such a short time. (アングロサクソン系)
He completed the work in such a short time. (ラテン系)

上記の例だと,アングロサクソン系のget throughは格闘しながら仕事をやりきったという生き生きした感じがあるのに対して,ラテン系のcompleteは洗練され高級な感じがあるがやや冷たい感じを伴うという.

コンピュータ界隈にいると,completeってよく見るし,普通に英語だと思っていた.英語圏の人からすると外来語で,形式張った感じだったのかと.このあたりの感覚はまったくなかった.

また,学問の専門用語には,造語が容易であり,かつ高級に響くラテン系が好まれる,とある.ということは普段論文で読んでいる文章にはラテン系の表現が多いのだろうか.
日本語でも,格調の高い文にするために漢語を使うというのは,よくあるアプローチで,そのあたりの類似も興味深かった.

moon/月

日本における月のイメージは良い.

「日本人が月の光を浴びながら時の経つのも忘れて逍遥し,気が付けば夜を徹して月見をしていたという風流心」を持っているという.

漱石は,I love you.に月が綺麗ですねと訳を当てた,とのことだが,そうした風流心を前提にすれば,わかる気がする.

男女が二人,縁側に座って,時を忘れて静かに月を見上げている.

そんな情景が思い浮かべば,二人の関係は言葉に出さずとももはや明らかだ.
ただ,正直,家族で月見団子を食べたぐらいの月見の思い出しかない私には最早説明されないとわからない文化になってしまっていた.

ちなみに,欧米では月は一ヶ月の間に何度も姿を変える不気味なもの,というイメージらしい.月をみて狼男になったり,lunatic が狂人だったり,と.

そのほかgift/presentとかwhaleとか.

あとは,小売会社はgiftと言いたがり,一般人は普通はgiftと言わず,presentというとか.giftは高価な贈り物でやや冷たい感じがするのに対して,presentは,手頃な値段の贈り物であたたかく,柔らかいかんじがすると,と.

また,欧米人にとっての贈り物に対する感情の根底にはトロイの木馬の故事がある,という話も興味深い.

I fear the Greeks, even though they bring gifts.

という諺があって,Greek giftsはトロイの木馬のように油断ならないものという感情があるとのことだ.その他,パンドラの匣も,そういった油断ならないgiftだと.

上記は,故事だったけど,その他にも聖書由来のイメージも多かった.例えばクジラとか.旧約聖書にて,クジラは,神に5日目に創られた,とあるそうだ.そういう背景がわかれば,欧米諸国が反捕鯨に熱心に取り組むのもわかる気がする.

1993年発行の古い本ではあるが,根が聖書だったり古典だったりするので流行り廃りするような項目は少なく,今でも学ぶべきことは多い.言語を学ぶのは歴史や文化を学ぶこと,とは言われるが,よくまとまった良書である.

2019年7月15日月曜日

読書記録 稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる

稲盛和夫著「稲盛和夫の実践アメーバ経営 全社員が自ら採算をつくる」を読んだ.稲盛氏は,京セラ,KDDI(の前身のDDI),日本航空(JAL)の経営トップを歴任されてきた日本を代表する実業家.本書は,稲盛氏が培ってきたアメーバ経営をどのように実践するのかをJALなどの事例をもとに説明している.



その名も「アメーバ経営」という本もあるが,そちらはまだ読んでいない.そちらは2006年とやや時間が経っているのに対して,本書は2017年出版と新しく,また例が多くとっつきやすそうだったので,まずこちらから読むことにした.文字が大きく200ページと短いのですぐ読めたし,アメーバ経営の基本的な考え方も説明されていて,自己完結しているので,その判断は正解だったと思う.

財務会計と管理会計というふたつの会計システムがあって,アメーバ経営では主に後者に関する.粗くまとめると,会社を5人程度のアメーバという単位に分割し,それぞれのアメーバを独立採算制で運用する.外部とのお金のやり取りのある部署ばかりではないので,社内で取引するという考え方で採算を評価する.

上記のような方法により,下記のようなメリットがある

  • いつでも,会社のどの部分が問題があるのかを経理的に明らかにできる
  • 小さな単位で採算性を意識させ,社員ひとりひとりに経営感覚をもたせることができる
考え方はシンプルで,なるほどなぁと思うけれど,実際に運用するには社内取引に関する値付けなどに工夫が必要で,なかなか一筋縄ではいかなさそうだった.

製造業,通信業,輸送業などで稲盛氏が成功をおさめているという実績を考えると,アメーバ経営を適切に運用するための一段メタな部分である(経営)哲学の部分が重要なのではないかと思う.


次は今の仕事を改善するために何ができるのかを考えるべきなのだろう.OSS開発だと,社内に閉じないので社内取引とは?となるしね.

もし,ソフトをインストールと取引が発生したと考えるなら,使わないインセンティブが働いてしまいそう.新しいソフトを使うには,ただでさえ学習コストや乗り換えコストがかかるし.

今度は,ソフトウェア産業の経営に関する本を読んでみたいと思う.

2019年7月14日日曜日

読書記録 呼吸入門

齋藤孝著 呼吸入門 を読んだ.

本書では,日本には伝統の呼吸法があったと主張し,現代ではその伝統が断絶しかかっていると問題を提起する.そして,現代人が伝統の呼吸法を取り戻すエクササイズとして
3秒吸って,2秒とめ,15秒で吐くという齋藤式呼吸法を提案している.



この呼吸の特徴は,下記にあるように吐くことに重きを置いている.吐けば,吸える.
捨てればスペースができ,そこが自然と満ちてくる.その「他力」を信じる.(P. 60)
齋藤先生は,授業中に子どもを集中させるために,課題の前にこの呼吸をさせたりするそうだ.何日も続けていると,子どもたちはこの呼吸をすることで集中モードに入ることができるようになる,とのこと.スポーツ選手がするようなルーティンの一種のようになっているのかもしれない.

私は本書を読んで,姿勢とか呼吸に意識がいくようになった.

本を読む際にも,また,コーディングでの難解な局面でも,ふと姿勢が悪くなって,呼吸が浅くなていることに気づく.そんなときは,すっと骨盤を正して深く呼吸をしてみる.それで集中力が戻らないなら,力を使い切っている証拠であり,休憩したり他のタスクに切り替えたりする.

呼吸をきっかけに生産性が高まったように思う.

本書の話に戻る.齋藤孝先生の研究の出発点が呼吸と教育の関係性についてであったのは本書を読んで初めて知った.「息の人間学」が研究者向けであるのに対して,本書「呼吸入門」は一般向けの内容になっている.

ただし,よくあるHowTo本とは違って,呼吸と日本の身体文化,呼吸と武術,呼吸と能の関係などを論じて,呼吸の重要性を説明していて,なるほど深いなと思った.20年の研究成果に裏打ちされている.

一方で,「XX力」などのシリーズと同様に本書も非常に読みやすい.こういうリズムのある説明も,整った呼吸から生み出されているのかもしれない.

2019年7月12日金曜日

読書記録 不動産を買うなら五輪の後にしなさい 不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ

萩原 岳著「不動産を買うなら五輪の後にしなさい 不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ」も読んだ.



著者は不動産鑑定士で,相続の際の土地の税金を計算したりするような仕事をしている.売買したり,仲介したりする人ではないので,そのへんがフェアな視点から書かれているように思った.

例えば,新築と中古の売買価格の決まり方の違いを丁寧に説明していたり,利回りとリスクプレミアムの考え方を説明していたりなどだ.新築を買うのはよっぽどお金に余裕がないとつらいな,と思ってしまった.買う予定は全くないけれども.

また,なぜ都心のタワマン人気なのかこの本を読んでようやく気持ちを理解した.価格に占める上モノ:土地の割合とか,人口減社会でも地価が下がらなさそうな場所を選んで建てられているとか.利便性の高い場所は限られていて,そこに高い構造物を建てて皆でシェアするのは合理的,ということなのだろう.

この本で解説されている値付けのからくりがわからないと,物件が割安か割高かは判断できないと思った.相場観とはいうものの,基準がないと踊らされてしまう.タイトルにあるように五輪もそうだし,過去にはバブルとか.

次に引っ越すときにはもう一回読み返したい.

編集元のツイート:
4月に読んだ本みたいだけど,メモしてあると内容を思い出すものですね.

2019年7月11日木曜日

読書記録 珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように

岡崎琢磨著 珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように を読んだ.シリーズ最後の1冊だ(2019年7月現在).



本作では,「アオヤマ」の中学生時代の恩人である年上の女性「眞子」が登場する.彼女は,アオヤマがコーヒーを追求するきっかけを作った人でもある.そんな彼女との11年ぶりの再開から物語が始まる.

今回の京都要素は源氏物語で,宇治などゆかりの場所が登場する.古典に登場する「京」と京都は,頭の中で全然つながっていなかったのだが,そう言われてみれば確かに源氏物語は京都が舞台だった.

源氏物語だけあって,ややドロドロした話が多めながらも,最終的にアオヤマとバリスタの関係に進展が見られてよかったように思う.その後の話も読みたいなと思うけど,源氏物語の「夢浮橋」のようにこのままの終わりでよかったように思う.

今回のコーヒー豆知識は世界各国のコーヒーだった.タイトルにある鴛鴦茶(えんおうちゃ)もその一つ.コーヒーと紅茶を混ぜた飲み物で,香港でよく飲まれているものだそうだ.

鴛鴦茶(えんおうちゃ)はコーヒーと紅茶を混ぜた飲み物

コメダ珈琲にも期間限定で「ジェリコ 鴛鴦茶」なるものがあるそうなので飲んでみたい.もはや別物のような気もするが.

タレーランの事件簿シリーズ


2019年7月10日水曜日

読書記録 その英語仕事の相手はカチンときます

デイビッド・セイン著「その英語仕事の相手はカチンときます」を読んだ.本書では,職場でありそうなシチュエーションごとに「カチン」とくる言い方と,正しい言い方が提示される.見開きで1シチュエーションなので,サクサク読める.



最初の例は
「週末どうだった?」という質問に対する
"Fine."
という回答。これは愛想のない答えで、まぁまぁという度合いが強い.

おすすめは
"pretty good."だそうだ.
ネイティブがよく使うと.

いいな,と思ったのは,正しい言い方が複数あること.丁寧さの違いや、自信の有無などをグラデーションで示してくれる.これを見ていると,英語にも謙遜とか敬語ってあるよな,と思う.

こういう例が100個ぐらい載っている.感覚な部分も多いので,暗記(!)しないとしょうがない部分も多い.が,「英語を暗記しないでモノにする方法」を意識しながら,例を眺めていると,仮定法で柔らかくする,断定を避けること(I think ..., I'm afraid ...とか)で柔らかくするなどのルールがあるよなと思った.


これを読んで,コードのレビューのときなどに
「失礼じゃないかな?強く言い過ぎてないかな?」
と意識するようになった.あとは復習ですね.

幻の黒船カレーを追え

水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「 銀座ナイルレストラン物語 」( 読書記録 )を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。  今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。  で...