2019年12月24日火曜日

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論(あるいはルネサンス変人列伝)

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論
神田のスターバックスにて

著者のヤマザキマリさんはテルマエ・ロマエで有名だが、以前は画家をされており、学生時代はイタリアで美術を学んでいたという。そんな著者が(独断と偏見で)選んだルネサンスの芸術家たちを、その良さはもちろん変なところも含めて紹介している。というか、変人エピソードが結構多い。

私も(読んでいる分には)変人が好きで、変人エピソードの多い本(高野秀行氏の著作とか)をまま読んできたが、本書もなかなかよかった。道を極めると変になるのか、変だから道を極められるのか。

とはいえ、単におもしろおかしく書いているわけではなくて、
  • ルネサンスをおこした人々と社会情勢
  • ルネサンス最盛期の様子
  • ルネサンスにおける外国(北方、イスラム圏)の影響
などがわかりやすくまとめられていて、勉強になった。

なんだか抽象的なので、いくつか記憶に残っているエピソードを記す。

本書で初めに紹介される画家。私は本書で初めて知った。この人はイタリアの絵画は宗教画から脱却するきっかけの一人として説明されている。その功績は「実在の人物をモデルに、それと分かる形で描いた」こと。彼の絵のモデルになったのが、奥さんと子ども。自分の愛するものを思いっきり描いたら世界が変わった、というのはすごい。実は聖職者なのに駆け落ちして、その上絵のモデルにする度胸もすごい。筋の通った変人である。


2)ルネサンスの三大巨匠といえばラファエロミケランジェロダビンチだ(実はこれも本書で知った。ラファエロについてはあまり知らなかった)。三者三様でそれぞれ違って面白かった。ラファエロは、クライアントの気持ちを汲める常識人的な人だったらしい。その一方でちょっと変わった形で自己アピールをしていたりする。例えばラファエロの「アテナイの学堂」で一人だけカメラ目線の人がいる。そのモデルが自分という。回りくどいというか、通好みというか、変わっている。

一方で、「筋肉は裏切らない」を地で行くミケランジェロもすごい。「胸の上にリンゴ載せてんのかい」な裸婦像を披露されたときのクライアントの気持ちを想像すると忍びない。

また、ダビンチの人嫌いエピソードも興味深かった。人嫌いだからこそ、解剖図に熱心に取り組んだ、という。対象から距離を取れるからこそ、客観視でき、客観視できるからこそ人体を切り刻んでも平気でいられる、ということか。人が切られるのを見て、自分が痛みを感じていては、解剖図は描けない。


3)国によって、画材が違った、というのも知らなかったので勉強になった。イタリアではテンペラ画やフレスコ画が主流だったのに対して、北方では油絵が発達した。その一番の違いはざっくりいうと解像度で、油絵のほうがずっと細かな表現ができた(そうだ)。なので、北方の画を見たイタリアの芸術家はその緻密さに驚いたという。ルネッサンスはイタリアからその他の地域に広がったと漠然と思っていたので、画材や技法についても同様だと思っていた。しかし、実際は北方の油絵やイスラム世界に残るローマ時代の芸術がイタリアに大きな影響を及ぼしていた、ということがわかった。勉強になる。


この本は、芸術家の「人」の部分に焦点を当てて解説しているため、親しみがわいてくる。人がわかれば絵の背景も見えてくるので、読む前よりずっと理解ができるようになった(と思う)。そういう意味で、絵画には詳しくないけど教養として知っておきたい、という人におすすめできると思う。私もその一人だ。



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