2021年10月8日金曜日

幻の黒船カレーを追え


水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「銀座ナイルレストラン物語」(読書記録)を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。

 今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。


 では、ここからあらすじと感想を。

 日本のカレーのルーツを探ると、明治時代に黒船に乗ってやってきたイギリス人から伝えられたレシピ(西洋料理通)に行き当たる。では、イギリスに行けば、当時のレシピで作られたカレーが今も食べられているのだろうか、ということを実際にイギリスに行って確かめたのが本書だ。サラリーマンの身で、何か月も現地調査ができるわけでもなく、著者は仕事をやめ、フリーランスの作家になる決断をする。

 そういう意味では、本書はカレーを追った本であり、かつ、脱サラ(死語か…?)をした著者の旅立ちを記した本でもある。高野秀行氏の本もそうだけど、行動力がすごい。突き詰めるとはこういうことなのだろうか。

 幻の黒船カレーは見つかったのか、についての結末も、高野氏の本に似ている。プロセスが同じだと結果もまた同じになる、のだろうか。

以下、記憶に残った言葉

P. 53「料理人が最後に頼れるのは、自分の記憶なんです」

イタリア軒の窪田秀行総料理長の言葉。窪田氏は著者にイタリア軒のレシピを渡しながら「この通りに作っても同じ味にならない」という。レシピに書けることの中に本当に大切なものなんて存在しない、と。

カレーのレシピ本を何冊も出しているカレー研究家の著者をもってしても再現はできないというのだから、腕が問題ということではないのだろう。

むしろ、個人の味覚の違いだと指摘している。そして「味覚とは、味を覚えること。単純な料理ほど技術の差が出るから難しい。だから体で、目と舌で覚えること」という。

例えばイタリア軒のルウが完成した時の音を「ルウが鳴く」と表現しているが、どんな音かは想像もつかない。

P. 61「古のカレーを今に伝えるレストランはなくはないが、僕が本当に知りたい歴史や当時のレシピまでが整理されているケースはない。誰だって明日を見ながら今日を生きている。老舗のホテルやレストランだって同じだ。」

 著者が国内のレストランを回って、黒船カレーを探していた時の言葉。この言葉に、今回の旅が集約されている。

P. 145 「文献には一定の歴史的価値はあっても、その時代を映す鏡となりえるかどうかは疑わしいと常々思っていた」

 いわれてみればその通りで、自分が普段食べているものはレシピ本にあるような凝った料理ではなくて、むしろ手抜き料理だ。最近は「クラシル」の簡単レシピを参考にありもので作ったものを食べている。

 なので、昔のレシピというのも当時の権威の人がきれいにまとめたものであって、人々が食べていたものとは異なっているかもしれない、という疑いは理解できる。

 カレーレシピ本を40冊以上も題している著者の言葉だから重い。

 以上のように、カレーについてもこだわっていくと、料理以外に歴史や文献の信ぴょう性など様々な観点が表出してきて、とてもためになる。結局、総合格闘技になっていくのだ。

 内容以外で、この本を通じて感じたのは「寂しさ」だ。過ぎ去ってしまった過去、報われない探索、会社のメンバーから個人、など、本書はある意味で喪失の物語となっている。ただ、村上春樹の小説のように、喪失ののちに新しい何かを感じる物語である。

 そういう意味ではひたすら熱量を感じた銀座ナイルレストラン物語とはかなりテイストの違った本だった。


2021年10月7日木曜日

戦闘機乗りジイさんの世界一周 やってはいけない大冒険!!

 


保江邦夫著「戦闘機乗りジイさんの世界一周 やってはいけない大冒険!!」を読んだ。

著者は大学で教鞭をとる物理学者。本書は、著者とその父親のふたりで世界一周した旅行記である。父親は、第二次世界大戦で戦闘機「飛燕」に乗って首都防衛任務に就いていた。タイトルの「戦闘機乗りジイさん」はそこから来ている。

「やってはいけない大冒険」の方は、おそらく超ハードな旅程から。行先を決めるにあたって、父親から

  • いまさら大都市を見ても仕方がない
  • 同じ観光地に二日以上いるのもつまらない

という要望を受けたため、二週間にわたって移動し続けるという超ハードな旅程となった。

しかも、飛行機で飛び回るだけでなく、車でのアルプス越えやロッキー越え(しかも次の飛行機に遅れないように)をしている。父親が70代、著者が40代であるが、年齢を考えてもとても並のことではない。そういう意味で、確実に「冒険」であった。

印象的だったのは、いくつになっても親からは学ぶことがある、ということだろうか。

基本的に(著者から見れば)やることなすことケチをつける怒りっぽい父親なのだが、いざ、という時には優しい。例えば、険しい深夜の山道を何時間も何時間も走っても、まだ目的地に着かないとき

「この分ならホテルに着くのは深夜になる。途中で飯を食っていたらもっと遅くなる。次のガソリンスタンドで走りながら食べられるような食料と水を買い、ゆっくりと走ろう。こういう体験も勉強になる」

と言って著者をなだめる。

怒っているときは問題が大したことない時で、本当に問題になるような状況では極めて冷静になって打開策を考える。それが生きて終戦を迎えることができた一因と著者は分析する。

また、戦闘機乗りだった父親は行く先々の国で、航空関係者から敬意をもった対応をされる。もちろん、著者の交渉力もあってのことだと思うが、それでも、やはりうれしいことだろう。表紙の写真も、パイロットの好意で特別に旅客機のコクピットで撮影したものだ。

そういうわけで、冒険としても、家族の物語としても興味深い本であった。もう絶版になっているので、書店で買うのは難しいかもしれないけれど、図書館などで探して読む価値のある本。

2021年7月27日火曜日

有川浩 「阪急電車」再読

 

有川浩著「阪急電車」

図書館で見かけて気になって借りたら、以前にも読んだことがあった。1章読んで気が付いた。逆に言うと、表紙を見ただけでは気づかなかった。

そもそも、私は「阪急」に弱いようだ。親がもともと阪急系列の会社に勤務していたことも関係していると思う。

とはいえ、タイトルだけで読み通すほど、私は読書が得意ではない。この本はやはり面白い。

阪急今津線と主人公たち

本書の舞台は阪急今津線の8つの駅である。前半では電車は宝塚駅を出発し、西宮北口駅に至る。後半では、西宮北口駅で折り返し、宝塚駅まで戻っていく。それぞれの駅が一つの章に対応していて、駅ごとに主人公が変わっていく。

それぞれの主人公は初めは全くの他人である。偶然近くに乗り合わせた、というだけの縁なのだが、やがて人生を変えるような出会いになっていく。

現実世界では、電車で人と関わり合いになることなどまずない。しかもこの頃ではノイズキャンセリングヘッドホンで耳もふさいでしまっているので、人の話を小耳にはさむこともない。その意味で、この小説の阪急電車は、ある意味で時代劇の中の人情残る江戸の下町、みたいなものかもしれない。

また読み返すかも

本書の主人公は、老人と幼児、高校生、大学生、新社会人と様々である。大学生のボーイミーツガール的な展開もあれば、PTAの胃の痛くなるようなつらい人間関係もある。自分のライフステージが変われば、感情移入する主人公も変わってくるだろう。

そういう意味で、本書は何度も読み返すことになるかもしれない。

ちなみに、今回は「下らない男ね」「やめておけば?苦労するわよ」という老婦人の言葉が刺さった。そう言われている男には決して同情できないが、かといって、老婦人のように切ることもできない。自分を棚上げするなどというような思考をしていては、決して出せない切れ味である。私もこのまま歳を重ねていけば、(若いころの自分を忘れて)ズバッと切るようになっていくのだろうか。それとも、人の性質というのはそうそう変わらないのだろうか。


2021年7月21日水曜日

銀座ナイルレストラン物語 ー 日本初のインド料理店の発展

銀座ナイルレストラン物語
表紙の写真は看板料理の「ムルギランチ」

本の感想の前に

この本を読んだのは2020年の2月のことで、COVID-19の流行が国内で始まったころだった。緊急事態宣言、在宅勤務、などいろいろな変化があり、読書やブログを書くモチベーションを失ってしまっていた。

いま、ワクチン接種が進みようやくCOVID-19の出口が見えかけたような気がしている。ブログを書く気力も戻ってきたので、まずは古い記事の下書きから投稿しようと思う。

第一弾はこの「銀座ナイルレストラン物語」だ。この本で日本のカレー店の源流を知り、著者の熱にあてられて、家でスパイスカレーを作るようになった。

1年半も前のことなので、細部は記憶がおぼろげであるが、大枠だけでも書き残せたらと思う。

銀座ナイルレストラン物語の感想

ナイルレストランは銀座にある、日本初のインド料理店。インドカレーを初めて出した店、というと新宿・中村屋が思い浮かぶが、それは喫茶事業の一環であり、専門店としてはナイルレストランが初なのだという。

本書は、1949年創業のナイルレストランの創業から現在までを、創業者父子を追う形で書いている。

ナイルレストランの立ち上げ

初代のA. M. ナイル氏(以後、父ナイル)はもともとはインド独立を目指す革命家で、京大留学のために戦前、日本に渡ってきた。1947年にインドがイギリスから独立すると、ナイル氏の革命活動も終わる。そして、食べていくために始めたのがインド料理店であった。

面白いのは、インド料理を作ったのは父ナイルではなく、日本人の奥さんだということ。彼は経営者であって、料理人ではなかったのだ。

伝統の継承

本書の次の主人公は息子のG. M. ナイル氏。

彼は看板商品のムルギランチを決して変えなかった。違うことがやりたいなら別の店としてやる、ナイルはナイルなので同じものを大切に作り続けた。

ただし、彼は父ナイルとは違い、自分自身が料理人であった。万博のために来日したインド最高のホテルの料理人から直々に料理の指導を受けた。

興味深いのはその修行法。徒弟制ではなくて、家庭教師制なのだ。お金を払って、自分が納得するまで教えてもらう。「見て盗め」という職人の世界とは一線を画している。

以上のように、安易な現状維持のためではなく、料理人として積極的な判断で、レシピを守っていた。だからこそ、店は70年以上にわたって繁盛しているのだろう。

著者の情熱

登場人物も魅力的なら、著者の水野仁輔氏もすごい。
全編を通して、隙がない。正確に、しかも面白く伝えたい!という情熱が伝わってくる。
彼は、本書のほかにも「幻の黒船カレーを追え」というカレーに関するノンフィクションを書いている。ぜひ読みたい。

おわりに

私はまだナイルレストランに行ったことはないが、いつか気軽に外食ができるようになったなら、ぜひ行ってみたい。
すごい本に出会った。読んで良かった。



2020年1月26日日曜日

スタープレイヤー(恒川光太郎)十の願いを叶える能力を持って未知の惑星に連れてこられたら

恒川光太郎 スタープレイヤー

「十の願い」という特殊能力を持って、地球ではない別の世界で冒険の日々を送ることになった斉藤夕月。女。三十四歳。無職。本作はそんな彼女の異世界での暮らしを綴ったファンタジー小説である。

本作は下記のように始まる
2001年 東京 三月 
小金井市の住宅に真っ白な男がいた。
これがこの本を読むきっかけになった。舞台が近所だったから。ファンタジーを楽しめるかどうかは、その世界に浸れるかどうかにかかっている。場所つながりで、世界に入っていけるかもしれないと思ったのである。

読み始めれば、場所などほとんど関係なくスッとスタープレイヤーの世界に入り込めた。文章力がすごい。

プロットもよく練られている。願いを増やす願いを試みる(願いハック)など、よくある設定つつきなどに時間を使わず、その世界で生きるために、リアルに話が進んでいく。

そう、マイクラの初日に、なんとか日暮れまでに家を作り、安心して寝られる場所を確保するかのように。

また、人間関係の描き方もよかった。
最初に一人の暮らしを描き、次に二人の関係、そして村社会、国家と次第に人間関係が広がっていく。その中で、斉藤は成長していくのだが、要素が整理されているだけ、物語として伝えたいことがクリアになっている。

あとがきで「ファンタジー小説はまず書かせてもらえるようになるのが大変」とあるように、昨今の出版不況では相当な実力者でないとファンタジーは書けなくなっているらしい。そのハードルを超えたのも納得の本作は、皆におすすめできる。

本作には続編のヘブンメイカーも出ているので、今度はそちらも読んでみたい。


2020年1月25日土曜日

魔眼の匣の殺人 - 屍人荘の殺人のシリーズその2

今村 昌弘著「魔眼の匣の殺人」

「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」

本作は、予知能力を題材にしたミステリー。魔眼の匣(はこ)とは、予知能力者が住む山奥の村の(元)研究施設の名前。村の住民たちが、予言を恐れて村を離れる中、施設を訪れた主人公たちは、施設に閉じ込められてしまい、惨劇の幕があがる。

本作は、小平の図書館で5月に予約していて、半年待ってようやく借りられた。前作屍人荘の殺人(読書記録、Webコミック)がとても面白かったのでとても期待値Maxで読んだ。一日で読んでしまった。

本作は、前作に続いて舞台設定(というか、世界設定?)に特徴がある。

予言をアリバイづくりやトリックとして使う作品はよく見るように思うが、本作は違う。
「本当に的中する予言あったとしたら、どんな物語が展開できるか」というスタイルを採用する。とはいえ、全員が予言を信じているわけでなく、村の住人以外にはほとんど知られていない。なので、外からくる予言を信じない人、予言を恐れている村の住人のそれぞれの行動が物語を展開させていく。

設定がしっかりしているからだろうか、ああ、こういうこともあるだろうなという、ある種のリアルさを感じさせることに成功している。

その一方で、やや設定を作り込みすぎた感もある。後半で謎が次々と明らかになるのだが、開示される謎とそれに釣り合うだけの物語があったか、を比較するとやや謎が勝ちすぎているように感じた。本作が、そうだと言っているわけではないのだが、物語のない謎の開示は設定集を読むようなものである。個人的には、せっかく魅力的なキャラクタがいるのだから、各人を人として描く比率を高めてもよかったのでは、と感じた。これから読む人は各登場人物のストーリーを頭の中で十分に膨らませて読むことをおすすめする。

ともあれ、屍人荘の殺人につづいて、新しいエンタメ的ミステリーを提示していて、楽しめることは間違いない。

Youtubeで本書に関する著者インタビューを見つけた。


前作を読まずに、本作から読んでも良いといっているが、私は前作も読むことをおすすめする。重要な登場人物や組織は前作から引き継がれているし、前作の事件を踏まえた心理描写も多いので。

2019年12月28日土曜日

山藤章二のヘタウマ文化論を読んだ

山藤章二著 ヘタウマ文化論
神田の喫茶店にて

本書は、著者が夜寝る前に考えた「ヘタウマ」に関するよしなしごとを、そこはかとなく書きつくったもの。読んでいても「夜のリズム」というか、静かにゆるゆると流れていく思考を感じ取れてよかった。読んでいて穏やかな気持ちになった。

さて、山藤章二氏は、美大卒で広告会社から独立して挿絵、漫画で活躍され、この本の執筆時は75歳とのことだった。

当時、著者が美大に入るには、デッサンデッサンまたデッサンで絵を「上手く」描くことを叩き込まれた。また他の芸術でも同様で、作家は名文が書けてあたりまえだし、落語家は上手さで笑わせることを信条としていた、という。

それが、近年では「ヘタウマ」がもてはやされ、「上手く描ける人がわざと下手に描いて」表現をするようになったという。

本書で出てくるエピソードは、時代的には、私よりもだいぶ上で正直わからない人も多かった。そうなんだけれど、安西水丸氏はわかった。村上春樹のエッセイの表紙を描いていたりするけど、たしかにヘタウマだ。少なくとも画力を見せつけるタイプではない。

本書は、タイトルに文化論とあるように、ヘタウマが流行した文化的な背景が考察されている。ただ、資料にはよらず、記憶を頼りに論を進めているので、細部についてつつくのは粋ではない。むしろエッセイとしてとして読んだ。

興味深かったのが、議論の中で著者の友人であった「立川談志」の視点が何度も登場することである。談志の言葉を引いていることもあれば、あいつなら、こう思う、と書かれていることもある。これっていいなぁと思った。

一つの道を極めた友人が、自分の中にいる。それは、一人でいても、二人で議論を深められ、思考の袋小路に陥るのを助けてくれるだろう。

さて、私の頭の中に、誰かそういう人がいるだろうか。
世界に対して扉を閉じていないだろうか、また、通り一遍の人付き合いで世を渡ろうと考えていないだろうか。

著者の語り口と夜の雰囲気が、私にそんなことを考えさせた。
著者の人生のつまった、いい本だった。


2019年12月24日火曜日

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論(あるいはルネサンス変人列伝)

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論
神田のスターバックスにて

著者のヤマザキマリさんはテルマエ・ロマエで有名だが、以前は画家をされており、学生時代はイタリアで美術を学んでいたという。そんな著者が(独断と偏見で)選んだルネサンスの芸術家たちを、その良さはもちろん変なところも含めて紹介している。というか、変人エピソードが結構多い。

私も(読んでいる分には)変人が好きで、変人エピソードの多い本(高野秀行氏の著作とか)をまま読んできたが、本書もなかなかよかった。道を極めると変になるのか、変だから道を極められるのか。

とはいえ、単におもしろおかしく書いているわけではなくて、
  • ルネサンスをおこした人々と社会情勢
  • ルネサンス最盛期の様子
  • ルネサンスにおける外国(北方、イスラム圏)の影響
などがわかりやすくまとめられていて、勉強になった。

なんだか抽象的なので、いくつか記憶に残っているエピソードを記す。

本書で初めに紹介される画家。私は本書で初めて知った。この人はイタリアの絵画は宗教画から脱却するきっかけの一人として説明されている。その功績は「実在の人物をモデルに、それと分かる形で描いた」こと。彼の絵のモデルになったのが、奥さんと子ども。自分の愛するものを思いっきり描いたら世界が変わった、というのはすごい。実は聖職者なのに駆け落ちして、その上絵のモデルにする度胸もすごい。筋の通った変人である。


2)ルネサンスの三大巨匠といえばラファエロ、ミケランジェロ、ダビンチだ(実はこれも本書で知った。ラファエロについてはあまり知らなかった)。三者三様でそれぞれ違って面白かった。ラファエロは、クライアントの気持ちを汲める常識人的な人だったらしい。その一方でちょっと変わった形で自己アピールをしていたりする。例えばラファエロの「アテナイの学堂」で一人だけカメラ目線の人がいる。そのモデルが自分という。回りくどいというか、通好みというか、変わっている。

一方で、「筋肉は裏切らない」を地で行くミケランジェロもすごい。「胸の上にリンゴ載せてんのかい」な裸婦像を披露されたときのクライアントの気持ちを想像すると忍びない。

また、ダビンチの人嫌いエピソードも興味深かった。人嫌いだからこそ、解剖図に熱心に取り組んだ、という。対象から距離を取れるからこそ、客観視でき、客観視できるからこそ人体を切り刻んでも平気でいられる、ということか。人が切られるのを見て、自分が痛みを感じていては、解剖図は描けない。


3)国によって、画材が違った、というのも知らなかったので勉強になった。イタリアではテンペラ画やフレスコ画が主流だったのに対して、北方では油絵が発達した。その一番の違いはざっくりいうと解像度で、油絵のほうがずっと細かな表現ができた(そうだ)。なので、北方の画を見たイタリアの芸術家はその緻密さに驚いたという。ルネッサンスはイタリアからその他の地域に広がったと漠然と思っていたので、画材や技法についても同様だと思っていた。しかし、実際は北方の油絵やイスラム世界に残るローマ時代の芸術がイタリアに大きな影響を及ぼしていた、ということがわかった。勉強になる。


この本は、芸術家の「人」の部分に焦点を当てて解説しているため、親しみがわいてくる。人がわかれば絵の背景も見えてくるので、読む前よりずっと理解ができるようになった(と思う)。そういう意味で、絵画には詳しくないけど教養として知っておきたい、という人におすすめできると思う。私もその一人だ。



2019年12月23日月曜日

小説 ペイ・フォワード 指数関数的に広がる親切の輪



キャサリン・ライアン・ハイド著「ペイフォワード」を読んだ。

ペイ・フォワードは恩送りのねずみ講(表現!?)のようなもので
「人に親切にしたときに、自分ではなく別の3人に親切にするようにお願いする」
という運動だ。

3人 → 9人 → 27人 → 81人 → 243 → 729人 → 2187人 →

と指数関数的に親切の輪が広がっていく。やがて、世界の人口を超え、2度目、3度目の親切が回ってくる。

有名な話で、史実だと思っていた。
この本も、史実を基にしたノンフィクション小説だと思って、読み始めた。

読み終わってみたらフィクションでショックを受けた。

親切で世界を変えたトレバーはいなかったんだ。

いい話なんだけど、アメリカの下流よりの家庭の暗部(アルコール中毒、薬物中毒などなど)も普通に出てくるので、小学生には勧められない。おすすめできるのは中学生~高校生くらいだろうか。


2019年12月16日月曜日

読書記録 ぼくのフライドチキンはおいしいよ



中尾明著「ぼくのフライドチキンはおいしいよ あのカーネルおじさんの、びっくり人生」を読んだ。

ここのところ、子どもに伝記を読み聞かせている。エジソン、ライト兄弟ときて三冊目の本がこのカーネルサンダースの伝記だった。

本書は、主に小学生向けに書かれたカーネルサンダース(本名ハーランド・デーヴィッド・サンダース)の伝記だ。読む前の時点で、ケンタッキーフライドチキン(KFC)の店頭に立っている人形の人、65歳でKFCを立ち上げた、くらいしかカーネルサンダースの知識はなかった。てっきり会社を定年(?)退職して、KFCを立ち上げた脱サララーメン店主みたいな人なのかと思っていたのだが、この本を読んでそれが全然間違いだったことがわかった。

Wikipediaにも書いてあるが、大きく言うと機関車の火夫 → 弁護士見習い → タイヤのセールスマン → ガソリンスタンド経営 → レストラン経営 → ケンタッキーという流れで職を転々としている。仕事を変える都度都度で一文無しになっているところがすごい。65歳で無一文。そこからKFCで大逆転。

すごい。

また、それぞれの職で伝説的な逸話を残しているのがすごい。

たとえば、カーネルが火夫をしているとき、別の鉄道会社の列車が脱線事故を起こした。近くにいたカーネルは、その鉄道会社を相手に被害者のために交渉し、会社から多額の賠償金を勝ち取った。当時は、鉄道事故が起こったとき、鉄道会社は少額のお見舞金を配って終わりで、被害者はけがの治療費も満足にえられない、というのが常識だった。カーネルの行動は異例中の異例だ。当然このエピソードは鉄道会社に広く知れ渡り、会社に損失を与えた男として、以後、カーネルは鉄道業界から追放されてしまう。

レストランを始めた経緯も、もともとはガソリンスタンドのサービス向上の一環だった。章のタイトルにもなっているが「車にはガソリン、人には食事」というわけだ。レストランでも、より喜んでもらうにはどうしたらよいかを考えて、秘密のイレブンスパイスや圧力釜による高圧調理を発明し、のちのKFCにつながっていく。

自分の正義心と、人の役に立ちたいという思いを貫き通した人なんだろうなと思う。

ただ、正義のためには実力行使も辞さないところはやばい。椅子を振り上げるシーンが2回も登場する。弁護士見習い時代と、KFC時代と。60過ぎて、肉切り包丁に椅子で対抗するとか。普通ではない。

また、商売もうまい、というかよく考えられているなと思った。KFCはチェーン展開をするのだけれど、スパイスだけはカーネル(と家族)だけが調合し、ほかの人には秘密にしていた。そうすると、スパイスの減り具合からどれくらいチキンが売れているかが推測できる。これにより、売り上げに連動するローヤルティが正しく支払われているかを検証することができる。

伝記を読むと、偉人は変人でもあることが分かって面白い。
同じ著者が安藤百福の伝記も書いているので手に入ったら読みたい。

2019年12月15日日曜日

村上龍エッセイ集「ハバナ・モード」 キューバの人が困難に立ち向かう基本姿勢とは



村上龍著「ハバナ・モード」を読んだ。13歳のハローワークと半島を出よの間に書かれたエッセイ。小説家のエッセイは好きで、村上春樹の村上朝日堂や椎名誠の新宿赤マントシリーズを読んでいた。村上龍のエッセイは初めて。

結構、社会批評色の強いエッセイだなと思った。

例えば、表題になっている「ハバナ・モード」についてもそうで、困難にぶつかったとき、キューバの人たちはどのように対処するのか、ということが書かれている。なので、キューバ人という総体を扱っている。個人寄りか社会寄りかといえば社会寄りである。

ハバナ・モードとは何なのかというと、次の三つの態度を伴う問題解決の基本姿勢だと解釈した:

  1. 困難を直視する
  2. そのうえで、楽観的な気持ちで解決策を探る
  3. 解決に向かってひたすら努力する

たとえば、キューバはアメリカに経済制裁を受けて、化学肥料が手に入らなくなった。それで、人々は化学肥料の代わりに有機肥料を使い、農業を発展させた。その結果、今(2000年代前半)では有機農業の最先端を行っているという。

世間的にはニッチに見えても自分の道にひたすらこだわることで、いつの日か最先端に返り咲いたところはDeep Learningと重なるところがある。解決できることを信じて、ひたすら取り組むと本質をつかむことができる、ということなのかもしれない。

今の世の中の流れに安易に流されず、腰を据えて取り組む、というか。

思い返してみれば、このブログもそうだ。
短文が基本のSNSがあたりまえの時代に、あえて長文を書くのは、読んだ本に対して自分の感想や立場を一貫して説明し、記録するためだ。

短文は、短文で役割がある。しかし、知を身に着けるということは、自分の考えを、読み手に補完させることなく述べきることができることだと考えている。そのためには、長文は欠かせない。

エッセイはほかにもいろいろなテーマについても書かれていたが「ハバナ・モード」、それだけひとつ取り上げても勉強になる本だった。

2019年11月4日月曜日

読書記録 東京おさぼりマップ


東京おさぼりマップを読んだ.
20分間の気分転換「おさぼり」のできるスポットを紹介している.

行動圏内だと神田のショパンとか千代田区立総合体育館(今は千代田区立スポーツセンター),大手町のネオ屋台村などが紹介されていた.

2006年刊行と結構古く,移転したりなくなったりしている場所もまま見られる.JTBの旅の図書館なんてあったのか,と思ったが,丸の内から南青山に移転していたりする.

具体的な情報よりも,巻頭のエッセイがよかった.
村上春樹のエッセイの挿絵をよく担当している安西水丸氏や本の雑誌の元発行人目黒考二氏,イギリスはおいしいの林望先生らが自分のおさぼりを紹介している.

古書店,図書館,公園......静かで,また静かすぎないところで身と心を休めたくなるよね.

読書記録 光圀伝



冲方丁著 光圀伝を読んだ.水戸光圀公をモデルとした時代小説.大河ドラマでやった方がいいと思う.絶対面白い.(と思って検索してみたらこんな署名サイトがあった.しかし,この事件でもう無理なのか…)

光圀公といえば,テレビドラマの水戸黄門のイメージだった.
「助さん,格さん,懲らしめてやりなさい」
「もういいでしょう」
「この紋所が目に入らぬか」
「ははー」
の定型で,究極のマンネリ.正直,あまりいいイメージはなかった.

本書の光圀はアツい.
冒頭は,老齢に達した光圀がある男を殺めるシーンで,そこから幼少期の回想に入っていく.最初から宮本武蔵や沢庵和尚が登場し,武と知の極みを光圀に見せる.光圀の時代は戦国と太平の端境期で,光圀は武から知,特に詩歌や歴史編纂へと傾いていくのだが,その二人は読者にとってよい道標となっていて,物語に入りやすい.私はここで掴まれた.

ちゃんとその理由は最後に回収されるのだが,あーーーとなった.なるほど,これはすごい.ネタバレしたい.

SF作家が科学的事実の間をうまく縫って物語の核となるテクノロジーを生み出すように,史実と史実の間をうまく縫ってすごい歴史エンターテインメントを作り上げている.著者がSF出身(マルドゥック・スクランブル)だからそう感じるのか.

また,天地明察の渋川春海も登場する.私は既読だったので思わずニヤッとしてしまった.

それから,筒井康隆の解説も良かった.ネタバレしたいけど,書けないよね,という共感が得られた.

おすすめ.


2019年11月3日日曜日

読書記録 人生を考えるのに遅すぎるということはない



人生を考えるのに遅すぎるということはないを読んだ.建築家の安藤忠雄やフレンチシェフの三國清三ら各界の著名人が15歳の若者向けに書いたメッセージ集だ.

自分の人生を振り返って,その経験から大切だと思ったことを,平易で語りかけるような文章で書いている.易しいけど深い.30も後半戦の今読んでも染みる.

それぞれ壮絶な人生を歩んでいるので,直接的に応用できることはほぼない.ただ,その苦難に立ち向かう姿を見ると,生きる勇気が湧いてくる.

常に手元において,寝る前などに読み返したい.

2019年11月2日土曜日

読書記録 知の越境法~「質問力」を磨く~



池上彰著 知の越境法~「質問力」を磨く~を読んだ.
池上彰氏は「習慣子どもニュース」のお父さんとして知り,わかりやすく伝えてくれる人だなぁと思っていた.著書を読むのは初めて.

この本は,いかにして現在のフリージャーナリスト「池上彰」が生まれたか,を解説する自伝のようにもなっている.帯にもあるが,左遷がキーワードになっていて決して順風満帆な会社人生ではなかったことがわかって,勉強になった.左遷であれ,なんであれ,環境が変わったときに頑張れば,自分の引き出しが増えて次に繋がる.その実例が描かれている.生存者バイアスは割り引いて考える必要はあるが,それでも池上氏の行動には勇気づけられる.見習いたい.

で「質問力」については,いくつかポイントが挙げられていて実践的であった.
例えば「小学生にわかるように教えてください」という聞き方.自分がアウトプットする先を想定して,その要求を満たすように質問を組み立てるのだ.これは会社でも良さそう.

もう一つは,非専門家であることを自覚しつつ,最低限の勉強はしてインタビューに臨む,というもの.勉強しないのは論外なんですね.

最後は,質問リストは用意しつつも,現場ではそれを見ない,というもの.質問リストを順に聞くだけでは,議論が深まらない.回答に対して,あれ?と思ったことを深掘りすることで面白い議論ができる,という.これは確かにそう.機転がいって,難易度高いけど.

次は,この本で挙げられていた池上氏の現代史の本などを読みたい.


2019年11月1日金曜日

読書記録 村上龍料理小説集



村上龍著 村上龍料理小説集を読んだ.集英社文庫の方を図書館で借りて読んだのだが,いまは講談社文庫の方しか売っていないみたいなので,画像は講談社の方にした.

32の短編集.それぞれの章は前後でつながっていたりするので,はじめから読むと良いと思う.この本を読むと,なんだか上等な白ワインが無性に飲みたくなった.なので夜に読むようにしていた.

知らない食べ物も出てきた.例えば,フンギ・ポリツィーニというきのこで,フンギと略されていて?となった.検索してみるとポルチーニのことみたいだ.あとは,フロリダのストーンクラブ.コストコでも売ってたりするみたい.ただ,このブログに見るように,やっぱり現地のレストランで食べたいですね.

20代の頃は,村上龍氏の作品を1ページで挫折していたのだが,30代の今は「そういう人もいて,そういう表現もある」ということで読めるようになったし,それなりに楽しめる様になった.カンブリア宮殿の影響も大きいと思う.小説に反して,案外まじめな人なんだな,と.

巻末に1988年10月刊行とあって,バブル真っ盛りのころ出された本らしい.そのせいなのか,ニューヨークでもパリでも高級ホテル,高級レストランが多く登場する.

当時,日本は勢いがあったんだなということを感じる.いま,もしこうした本が書かれるとしたら,だいぶ違った雰囲気になるのではないかと思う.

時代のスナップショットとして,読んでみるのもよいと思う.


2019年10月31日木曜日

読書記録 星を継ぐもの



ホーガンの名作SF星を継ぐものを読んだ.会社で「三体」が紹介されたときに関連作品として話題に上がったので,読んでみた.

人類が木星にまで進出した未来のこと.月面で宇宙服を着た死体が見つかり,分析の結果,5万年前のものだということがわかる.この死体の正体が何かを物理学者のハント博士が調査を始めるところから物語は始まる.事実から仮説を立て,仮説を検証するうちに説明のつかない謎が現れ,そうこうしているとまた新しい事実が判明して仮説をアップデートして,というプロセスを繰り返す.(うまくいっている)研究のプロセスを追体験できてとても楽しい.

最後までとても楽しめた.続編の「ガニメデの優しい巨人」も読みたい.

ただ,読み終わってから?となった.もしかしたら前に読んだことがあるかも.妻に聞いてみたら,その表紙は見たことがあると言っていたのでたぶん読んでいる.おそらく大学生のころだと思う.

すべてを忘れてしまって,二度目も存分に楽しめたのでお得だったと思うことにした.

2019年10月29日火曜日

読書記録 今すぐ「それ」をやめなさい



森田豊著 今すぐ「それ」をやめなさいを読んだ.
著者は医師で,健康のためにやめた方が良い習慣を1つ約4ページで50個紹介している.

テーマは食事,アルコール,入浴・睡眠,身だしなみ,心と脳の健康,足腰,社会生活の7つあった.

取り入れたいと思ったのは,下記の3点.

  1. お風呂で湯船に入ってから体を洗うのをやめる
  2. カロリー消費を運動に頼るのはやめる
  3. 2時間以上座りっぱなしをやめる
一点目については,湯船につかると,皮膚表面がふやけて傷つきやすくなり,その状態で体を洗うと皮膚が荒れて乾燥肌が悪化する,ということらしい.これは経験的にもそうなので,今後も先に体を洗ってから湯船につかるようにしたい.

二点目は,普通の生活をしている人は,運動で消費されるカロリーはたかだか5%(そもそも時間が取れないからでしょうな).で,約30%は,非運動性熱生産(ニート)で,通勤で歩いたり,家事をしたりして体を動かすときに消費されるらしい.基礎代謝が60%なので,その半分にあたる.基礎代謝は30代男性なら1500kcal程度らしい(参照).その半分は700kcalくらい.結構大きい.水泳ならクロールで1時間半くらい泳がないといけない.クロール3時間は厳しいが,ちょこちょこ体を動かすのを2倍にするのは可能なのではないか.日常生活のちょっとした活動を増やしていきたい.

三点目は,2時間以上座っているとがんのリスクが大腸がんだと8%上がるらしい.ニートが阻害されて,免疫機能が衰えるからだ,と推測されている.なので,そういう面でもちょくちょく席を立って歩き回るようにしたい.

このほか,そうだろうなと思ったのは下記2点.一見体に良さそうだけど,効果がない or 逆効果.
  1. デトックスで体はきれいにならない
  2. 運動前の入念なストレッチはやめる

そして,これはちょっと議論がありそうと思ったのは下記2点.
  1. 少量のお酒は認知症予防によいが,大量はだめ
  2. 食後すぐの歯磨きはしない
お酒については統計のとり方があれで,お酒を飲まない人のグループに病気で飲めない人が含まれていて,悪い方向にバイアスがかかっていた,という話が最近出ていたように記憶している.つまり,少量でも飲むと有害だ,と.今年読んだはずだが,その本を日記に書いてなかったのが残念.

食後すぐの歯磨きについては,食事で生じた酸が歯の表面を傷つけやすくなるから,というのが理由だが「酸性の食品をとった直後は避けるだけでよい」などいろいろ議論があるみたいですね.

健康に関する「定説」は結構移り変わるので気をつけてアップデートしていかなければと思った.

2019年10月28日月曜日

読書記録 アメリカの高校生が読んでいる投資の教科書



アメリカでは高校生に経済や金融の実践的な教育が行われているが,日本ではまだそこまでではない.本書は,日本の高校生に投資の基本を教えるとしたら,という過程で書かれている投資の教科書だ.

株式,債権,為替について一通り説明してある.複利の効果で72のルールなど実践的な内容もある.知っている内容が多かったが,良い復習になった.

ただ,2010年の発行なので,2019年現在では例に挙げられている数値が古くちょっとピンとこないものもある.今はもうマイナス金利だったりするしね.

2019年10月11日金曜日

読書記録 夜型人間のための知的生産術



齋藤孝著 夜型人間のための知的生産術を読んだ.
齋藤先生も夜型らしい.内容は,これまで読んできた齋藤先生の本にあるように,

  • とにかくたくさん本を読む
  • アウトプットもする.それも人が唸るようなものを書こうと努力する
  • 呼吸を整えて,肝の据わった人になる
というような,いつもの自分を磨く方法が書かれている.本書の特徴は,それらの方法や効果を説明するのではなく,それをする時間に注目している点だ(なので,方法は他の本を読んで補うべき).先生の体質と体験から夜にする場合に焦点が当てられ,先生の経験と夜型の偉人たちの逸話をもとに説明されている.

世間では朝型がもてはやされているので,その逆張りでもある.
昔から早起きは三文の徳,と言うし,最近では,ティム・クックの起床は3時45分という話もある.

しかし,近年の研究で,朝型か夜型かは遺伝子が大きく関わっていて,体質なので変えようとしても仕方がないらしい,ということがわかってきた.

そうすると,朝型は朝型なりに,夜型は夜型なりに,それぞれ特徴を活かしながら頑張っていくしかない.

本書を読めば,夜型の人は自分にあった鍛錬の方法が見つかるかもしれないし,朝型の人は夜型の人はそう考えるのか,とかそんな努力をしているのか,などと夜型の人への理解が深まるかもしれない.

ただ,本書には今まで読んできた齋藤本と比べて,主張にやや歯切れの悪さを感じた.それは, 世間には夜型でない人もいて,それでも成功している人がいるためではないか.

例を挙げるとすると,夜に創造性を発揮した作家としてバルザックを上げている.夜,書いて,朝,校正するタイプだったらしい.でも,作家こそ,いろいろなタイプがいる.例えば村上春樹は午前中にしか仕事をしないという.そうすると,夜じゃないと創造性が高まらないわけではないよね...と思ってしまうのだ.

夜とか朝とかにこだわらず,それぞれがそれぞれのゴールデンタイムを持っているはずなので,成し遂げたいことを常に頭の片隅において,どの時間に何をするといいのか,考えなさい,というのが,この本から学ぶべきことなように思う.


幻の黒船カレーを追え

水野仁輔著「幻の黒船カレーを追え」を読んだ 。「 銀座ナイルレストラン物語 」( 読書記録 )を読んで、同じ著者が出しているカレーの物語、ということで本書を読んでみた。  今回の感想はややネタバレ気味なので、新鮮な気持ちで読みたい方は、この先を読む前に、本を読んでほしい。  で...